第89章

『いや』

林原撫子は、彼のはぐらかすような物言いが心底嫌いだった。好感度は音を立てて下がっていく。

眉をひそめて見返されても、村川崇史はふっと笑うだけで、腹を立てた様子もない。

くわえていた煙草を指でつまんで口から外し、唇を軽く舐める。階段の手すりにもたれたまま、気楽そうに言った。

「林原さん。そんなに俺を敵視しなくてもいいだろ。昨夜は肩を並べて動いた仲間じゃん? 一晩で、そんな露骨に距離置く?」

林原撫子は半歩下がり、腕を組んで冷ややかに返す。

「村川警察官。敬意があるからそう呼んでいるだけです。私たちは親しい間柄ではありません。あなたの言うような関係でもない。……それで、私を...

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