第94章

林原撫子の声は次第に沈み、ひと呼吸置いてから続けた。

『ただ、奥さんと子どもの死については、まだ断定できません。結婚生活に絶望して、子どもを連れて自死した可能性もある。あるいは薬を盛られた可能性も。犯人が男主人を殺した心理から考えると、結婚指輪を持ち去ったのは、男主人の立場を「置き換える」ためでしょう。あいつが欲しかったのは、夫婦のあいだの「関係」そのもの。殺人は、その欲求を満たすための手段にすぎない』

そこまで口にして、林原撫子は思わずぞくりと身を震わせた。犯人の内面を深くえぐるほど、恐怖と嫌悪が胃の底に溜まっていく。

まともな人間が殺人犯の論理を理解しようとすればするほど、結局は理...

ログインして続きを読む