第66章

「ううん、今ちょうど横になったところ。少し本を読んでたの」九条美琴はそう答えた。

口に出してから気づく。自分の声がやけに柔らかい。夜更けの静けさの中だと、まるで恋人に囁きかけているみたいに聞こえてしまう。

――なのに、彼とは何の関係もない。

友達、と言うには違う。

親戚、と言うにも、彼女は九条家と縁を切っている。

むしろ医者と患者、そのほうがしっくりくる。

けれど、こんな時間に患者へ電話をかけてくる医者なんているだろうか。

美琴の胸の奥で、何かがちくりと引っかかった。うまく言葉にできない違和感。

考えすぎなら、それはそれで気まずいだけだ。

「今日、優斗が君に迷惑をかけた。本...

ログインして続きを読む