第140章 五年

五年後――。

星市、柏悦ホテル最上階。世界中の政財界の要人が集うチャリティーガラは、いままさに佳境を迎えていた。

古川寒弥は主賓席に座っている。五年という歳月は、この男の顔に皺ひとつ刻まなかった。むしろ研ぎ澄まされ、いっそう深く、冷たく――近寄るな、と全身で告げるような気配を纏っている。

この五年、古川寒弥は仕事の機械になった。古川グループの版図は彼の鉄腕で倍以上に膨れ上がったが、本人の心は――五年前、あの葬儀の日に、完全に死んだ。

「それでは、今夜のラストを飾る目玉オークションです」

オークショニアの昂った声がホールに響く。

「封筆して十年――文壇の巨匠ミラー氏による遺作『深海...

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