第141章 紫雲

千里離れた南市の古鎮。

糸のような小雨が、青黒い瓦を伝って青石の石畳へ落ちる。澄んだ滴の音が、ちいさく「ぽつ、ぽつ」と夜に滲んだ。

ひっそりとした、上品な水辺の小さな院。窓の奥から、あたたかな橘色の灯りがこぼれている。

二階の子ども部屋は、まるで絵本の中だ。

須藤寧音はベッドの端に腰を下ろし、彩り豊かな絵本を手にしていた。

「……人魚姫は、最後まで王子に短剣を突き立てなかったの。太陽が昇るとき、彼女は海の上の色とりどりの泡になって――空へ、飛んでいった……」

「ママ、人魚姫、かわいそう……」

ふわふわの布団の中から、粉雪みたいな小さな女の子が、もこっと頭を出す。黒葡萄みたいに大...

ログインして続きを読む