第16章 西川星奈の世論戦

 

親子デーのあと、須藤寧音の暮らしは、また以前の静けさを取り戻した。

毎日きちんとスタジオに顔を出し、映画『青鸞』のアフレコに全神経を注ぎ込む。

まるで、あの日の園庭で起きたことなど、取るに足らない小さな出来事だったかのように。

だが、古川寒弥の心だけは、もう平穏には戻れなかった。

「古川さん」

彼女がそう呼んだ。丁寧で、どこまでも他人行儀な響き。

抜けない棘みたいに胸の奥に刺さり、ふとした拍子に浮かび上がっては、じわじわと苛立ちを増幅させる。

眠れなくなった。

目を閉じれば、脳裏に現れるのは、須藤寧音の冷たく、見知らぬような瞳。

そして、涙の跡でぐしゃぐしゃになった古川...

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