第32章 母さんなんかじゃない

 

「……なんで、避けなかったの……?」

古川辰は、須藤寧音の青ざめた顔を見つめた。小さな身体が、風に揺れる木の葉みたいに震えている。

わざとじゃない。

ただ、腹が立ちすぎて、怖すぎて――。

西川おばさんが言っていたみたいに、本当にこの人が自分を捨ててしまうんじゃないかと、怖くて。

「なんで避けないんだよ!」

泣き叫ぶ声には、強烈な後悔と、本人も気づかない幼い悔しさが混じっていた。

須藤寧音は辰を見た。その胸の奥から、言葉にできない悲しみが一気に押し寄せる。

口を開きかけた。

大丈夫。ママは怒ってないよ――そう言いたかった。

だが、その前に古川寒弥の、怒りを必死に押し殺し...

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