第54章 男の温かくたくましい胸に飛び込む

尾川通り、川辺の苑。

ここは、須藤寧音が二年前、なけなしの貯金をすべてはたいて買ったマンションだった。

最上階のメゾネット。巨大な一枚ガラスの床から天井までの窓があり、星市でいちばん美しい川の夜景を、まるごと抱きしめるように眺められる。

古川爺さんが初めてここに来た日のことを、彼女は覚えている。口では「無駄遣いしおって」と小言を言いながら、目の奥には誇らしさがいっぱいで。

大きな窓の前に立ち、外の灯りを見下ろしながら、肩をぽん、と叩いた。

「うちのねねは、ほんとにえらいなあ。自分の力で家を手に入れたんだ」

なのに今、部屋は何ひとつ変わらないのに――誇ってくれた人だけが、もういない...

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