第56章 離婚手続きが済むまで、あなたはまだ古川奥さんです

「きらい! あんたなんか大っきらい!!」

幼い声は、いちばん無邪気で、いちばん残酷な悪意をまとっていた。刃のように、須藤寧音の穴だらけの心臓へ突き刺さる。

彼女の顔から、最後の血の気がすうっと引いた。

だだっ広いリビングが、一瞬で死んだように静まり返る。

空気に残ったのは、子どもの喉が裂けそうな泣き声と、床に叩きつけられて粉々になったピンク色の録音ペン――そして、その破片が黙って嘲笑うような、みじめな余韻だけだった。

須藤寧音は立ち尽くしたまま、指先まで小さく震えている。

古川辰は、彼女が三年かけて育ててきた子だ。

この冷たい檻の中で、たったひとつの慰めであり、救いだと思ってい...

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