第70章 パパがママを取り戻してくるから

夜は、溶けきらない墨のように濃かった。

冷気はあらゆる隙間から音もなく滲み出し、骨の芯へと刺さってくる。

黒の高級ミニバンが一台、私有マンションの地下駐車場へ音もなく滑り込んだ。

ドアが開く。

先に降りた立花徹は反対側へ回り込み、そっと車のドアを開けた。乗り込んだときからひと言も発していない、その人影を見つめる。

「寧音、着いたよ」

須藤寧音はゆっくりと顔を上げた。

その綺麗な瞳は、ぞっとするほど虚ろだった。ついさっきの凄惨な対峙で、魂も、生気も、何もかも根こそぎ奪い去られてしまったかのように。

機械のように体を動かし、車を降りようとする。

けれど脚に力が入らない。ぐらりと...

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