第73章 彼は須藤寧音を愛している?

古川寒弥は、たったひとりで古城の冷えきったテラスに立っていた。アルプスから吹き下ろす凛烈な風が、身体の芯まで容赦なく貫いていく。けれど――胸の奥に渦巻く、あの巨大で滑稽な衝撃だけは、どうしても吹き飛ばせなかった。

愛?

自分が、須藤寧音を愛している?

――そんなはずがない。

ただ、慣れていただけだ。

彼女がそこにいることに。

あの家の中に、彼女の気配があることに。

手を伸ばせば届く場所で、従順に静かに息をしていることに。

そう、慣れだ。愛じゃない。

古川寒弥は何度も何度も、そう自分に言い聞かせた。

あの恐ろしい発想を、頭の中から根こそぎ引き抜こうとして。

だが、抗えば抗...

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