第84章 ママはパパが好きじゃない

「古川邸?」小寺蘭は眉間にしわを寄せた。「どういうつもりよ。あそこはあんたたちの新居だったじゃない。そこで会おうなんて、罠に決まってる!」

古川邸は街の中腹に建っている。古川寒弥が当時、自ら設計した「結婚の家」だ。

あの場所の隅から隅まで、須藤寧音の未来への憧れと、妻としての柔らかな気配が染みついている。

――それが今は、二度と踏み入れたくない、傷の残る場所になっていた。

「わざとだよ」

寧音の声は、ため息みたいにかすれていた。

「別れても、私の全部はまだ自分の手のひらの上だって、思い出させたいの。あの家も……辰も」

蘭は悔しさに胸を上下させたが、今は感情で突っ走る場面じゃない...

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