第98章 ついに、何も残らなかった

フェーヴァ湖畔の黄昏は、息が止まるほどの美しさだった。

金色の夕陽が雪山の頂を戴冠するように染め上げ、湖面はきらきらと揺れて、砕けた金が流れているみたいに光を散らす。

古川寒弥は、自分の「別れの儀式」にふさわしい舞台を選んだ。湖を見下ろす位置に設えられた、純白のカーペットを敷いた台。白い花が点々と飾られ、清らかな香りが風に混じる。

彼はその中央に立っていた。戴冠を待つ王のように。――そして、彼だけの舞台へ上がってくる「ヒロイン」を待っていた。

小径の先に須藤寧音の姿が現れた瞬間、古川寒弥の瞳孔が、わずかに縮む。

黒のベルベットドレスではない。

彼女が身にまとっていたのは、飾り気の...

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