第85章

どうやって宴会場を後にしたのか、千凪(ちなぎ)の記憶は定かではなかった。

 気がつくと、留奈(るな)の家の前に立っていた。

 チャイムを鳴らして扉が開くと、留奈が興奮した様子で出迎えてきた。だが、千凪の手ぶらの様子を見て、恐る恐る尋ねてくる。

「どうだった? うまくいった?」

 千凪は虚ろな目で頷き、ふらつく足取りでソファへと向かい、重い腰を下ろした。

 留奈も慌てて隣に座り込む。

「一体どうしたの? 聡一郎(そういちろう)に何か酷いことされたの!?」

 千凪は何も答えず、留奈の肩に頭を預けると、堪えきれずに嗚咽を漏らした。

 帰り道ずっと堪えていた涙が、堰(せき)を切ったよ...

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