第89章

全ての動きが唐突に止まった。光弘が顔を上げると、そこには千凪の冷ややかな眼差しがあった。情欲と甘美な空気は、潮が引くように消え失せていく。

 光弘は身を屈めて口づけようとしたが、千凪に拒絶された。

「触らないで!」

「千凪、説明を聞いてくれ。あの晩餐会の日、俺はあの女とは何もしていない。薬を盛られたんだ。だが指一本触れていない」

 光弘は腕の中の千凪を強く抱き締めると、その細い首筋に愛おしげに頬を擦り寄せた。会えなかった日々の思慕を訴えるかのように。

 千凪は鼻で笑った。

「私を騙して楽しい? もうすぐ白石家と婚約するくせに、まだ私を愛人として囲っておきたいわけ?」

「婚約?」...

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