第91章

「千凪?」

 花蓮は慌ててドアを閉めようとしたが、娘がすぐそばにいることに気づき、観念したようにドアを開け放って千凪を招き入れた。

 千凪は小雪の手を引いて中に入ると、何食わぬ顔で挨拶をした。

「引っ越したなら言ってよ。友達からここに移ったって聞いて、わざわざ会いに来たのよ」

 花蓮は後ろめたい表情で千凪を窺ったが、彼女に変わった様子がないのを見て、密かに安堵の息を吐いた。

「夫の会社が倒産して……帝都での生活費が払えなくなったから、ここに越してきたの。座って、何か飲む?」

 言いながら、花蓮はキッチンへと向かう。

「茉莉が昔、花蓮の絞ったオレンジジュースが好きだったわね。それ...

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