第107章

風英横丁――それは、叔母さんの生まれ育った場所だった。

それに、子どものころ唯一「静かに息ができた」場所でもある。小学校三年でピアノを習い始めたときは、横丁のとある家に置かれた古いピアノを借りて練習していた。中学のとき、ある年に高熱を出しても誰も面倒を見てくれなかったことがある。そのとき叔母さんが私を旧宅へ連れて帰り、一週間つきっきりで看病してくれた。

ところが少し前、その一帯が市の再開発計画に組み込まれ、来年から立ち退きが始まるという。補償額は現時点の相場で見積もっても、保守的に見て7億から9億。

もし岩崎成夫が、その金を手にしたら――。

清宮紬は書類袋を閉じた。

「内田弁護士、...

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