第3章
じっとしていられなかった。朝食も喉を通らない。午前十時だというのに、まだ昨日の服のまま、同じダイヤのイヤリングを三度も手に取っていた。
「奥様、ベッドを動かして後ろをお掃除してもよろしいでしょうか?」真里亜が掃除道具を手に現れ、いつものように許可を待っていた。
「ええ、お願い」私は散らかったジュエリーからほとんど目を上げずに、手を振って促した。
家具が床を擦る音に、ふと顔を上げた。真里亜が膝をつき、ナイトスタンドの後ろの隙間に深く腕を伸ばしている。
「あら」と彼女は呟き、何か小さなものを手に立ち上がった。「奥様、こんなに奥に挟まっていました。捨ててもよろしいですか?」
胃がひゅっと縮こまった。彼女の指の間にぶら下がっているのは、破れたコンドームの包装――うちでは絶対に使わない、コンビニの安物だった。
「何よ、これ……」私は息を呑み、彼女の手からそれをひったくった。
真里亜は私の言葉遣いに目を見開いたが、黙っていた。
包装を見つめながら、頭が状況を処理しようともがいていた。「これ……うちで使っているブランドじゃないわ」
「とても隠された場所にありました、奥様」真里亜は慎重に言った。「それに、日付も古くありません」
使用期限がこちらを見つめていた。最近。つい最近だ。
「処分しておいて」私はなんとか言った。「それと真里亜、このことは、私たちの間だけの秘密にして」
彼女は素早く頷くと、道具をまとめた。「では、下の階をお掃除します」
彼女が去った後、私はベッドに腰掛け、あの包装が見つかった場所をじっと見つめていた。頭の中を恐ろしい可能性が駆け巡ったが、心の奥底では、もうわかっていた。
私はスマートフォンを掴み、ホームセキュリティのアプリをダウンロードした。林田祐二の声が頭の中で響く。「最新鋭のシステムだよ、紗代。俺がいない時でも、君に不安な思いはさせたくないからね」
不安、ね。笑わせる。
震える指で過去の映像記録へと進む。もし誰かが私たちの寝室にいたのなら、もし証拠が……
カレンダーを遡る。二〇二〇年三月。健太が死ぬ三ヶ月前だ。
「二〇二〇年三月八日の履歴映像を読み込み中……」
サムネイル画像が画面を埋め尽くす。誰もいない部屋、いつもの家の中の光景、そして――心臓が止まった。
午後二時四十七分。主寝室のカメラ。ベッドの上に二つの人影。
「嘘でしょ……」私は囁いたが、震える指はすでにその画像をタップしていた。
映像が全画面に拡大され、私の世界がぐらりと傾いた。
黒石春子がフレームインしてくる。クリーム色のエルメスのドレスをまとい、髪もメイクも完璧――まるで秘密の逢い引きではなく、レッドカーペットにでも向かうかのようだ。
そこへ林田祐二が現れ、私はスマートフォンを部屋の向こうへ投げつけそうになった。
「ああ、会いたかった」黒石春子の声がはっきりと聞こえてくる。「芸術大学の頃から、私のことを本当に理解してくれる男性はあなただけよ」
芸術大学。二人は大学時代からの仲だったのだ。私の夫は、十年以上もこの女に執着していた。
「春子のためなら何でもする。知ってるだろ」林田祐二の声は必死で、哀れだった。「君から電話があって、黒石亮の命が必要だと言われた時、すぐに計画を立て始めたんだ」
「私の可愛い、献身的な祐二」彼女は指で彼の胸をなぞった。「他の男たちは私を所有したがる。でもあなたは私に仕えたいの。だからあなたは特別なのよ」
そして二人はキスをした。私の結婚生活の証であるはずのベッドの上で、飢えたように情熱的に。
「婚約パーティーは絶好のタイミングね」黒石春子はドレスのボタンを外しながら続けた。「黒石亮の息子は私を完全に信頼している。明日になれば、あの小さな障害物はいなくなるし、悲しみに暮れる未亡人には慰めてくれる誰かが必要になるでしょう」
「加藤紗代はどうする?」林田祐二が尋ねる。その手はすでに彼女の腰にあった。
黒石春子は笑った――本当に、声に出して笑ったのだ。「万代の田舎から来たあの才能のない凡人?スキャンダルで打ちのめされて、きっと自殺でもするんじゃないかしら。問題解決ね」
「もしそうならなかったら?」
「その時はあなたが救ってあげるんでしょ?ヒーローを演じて、彼女と結婚して、手元で管理するの。後始末はちゃんとしてもらわないと」
林田祐二は熱心に頷いた。「君が必要とすることなら何でも。十五年間、君を愛してきたんだ、春子。君のためなら、世界だって焼き尽くせる」
「ええ、知ってるわ」彼女の微笑みは、純粋なまでの打算に満ちていた。「だからあなたは、とても役に立つのよ」
私はスマートフォンを落とした。胃から酸っぱいものがこみ上げてくる。十五年。あの男は十五年間も、彼女の献身的な奴隷だったのだ。
よろめきながら後ずさり、読書用の椅子にぶつかった。この家の家具も、一つ一つこだわって選んだ内装も――すべてが最初から汚染されていた。
私の七千万円の夢の家。それが、二人の遊び場。彼女が忠実な犬に与えるご褒美の場所だったのだ。
「役に立つ」私は彼女の言葉を繰り返した。愛されているのでも、大切にされているのでもない。役に立つ、ただそれだけ。
さらに映像をスクロールする。日付は違えど、同じおぞましい光景の繰り返し。精神的な支えや、性的な解放、あるいは計画の相談が必要になるたびに黒石春子が訪れる。林田祐二はどんな切れ端のような関心でも、喜び、感謝して受け入れている。
先月の映像の一つには、こんなやり取りがあった。「黒石亮があの火事の保険金のことで疑い始めてるの」黒石春子はまるで天気の話でもするように、こともなげに言った。「そろそろ口封じが必要になるかもしれないわね」
「君が必要なら何でも」林田祐二は即答した。「万代にはまだコネがある」
私の両親の家。彼らを殺した、あの『漏電による火事』。
あの外道どもは、私たちの寝室で計画を立てていたのだ。
スマートフォンが震えた。林田祐二からの着信音だ。
「やあ、紗代」彼の声は温かく、心配に満ちていた。「なんだか声が沈んでるけど、大丈夫かい?」
私は寝室を見渡した――彼らの犯罪の、情事の、計画の現場を。
「ただ、あなたに会いたくて」私は滑らかに嘘をついた。「いつ帰ってくるの?」
「もうすぐだよ、紗代。春子が仕事の打ち合わせでこっちに来てるんだ。共同事業の話で、彼女と夕食でもとるかもしれない」
黒石春子が街にいる。当たり前だ、いるに決まっている。
「素敵ね」私は言った。「彼女によろしくって伝えておいて」
「わかった。愛してるよ」
「私も愛してるわ」
電話を切ると、すぐに北都の桜井直人にかけた。
「紗代か?こっちは朝の三時だぞ、一体――」
「助けが必要なの」私は彼の言葉を遮った。「どれくらい早く星和に来れる?」
「何があったんだ?」
「夫が十五年間も他の女を愛していたことがわかったの。ああ、それと、二人は私の両親を殺した」
沈黙。
「始発便を予約しろ」桜井直人はやがて言った。「明日にはそっちに着く」
私は窓辺へ歩き、街の灯りを見下ろした。この街のどこかで、黒石春子は私の夫と夕食をとり、おそらく次の手を計画しているのだろう。
「役に立つ」私は窓に映る自分に言った。「どれだけ『役に立つ』か、見せてあげる」
明日、本当のゲームが始まる。






