第4章

午後四時十七分きっかりに、玄関のドアが弾け飛ぶように開いた。私はこの一時間、私道に停まった黒いセダンを監視カメラで追っていた。運転手が荷物を降ろすのを、映像越しに見ていたのだ。

林田明美は、復讐の天使さながらに、我が家の大理石の玄関ホールに立っていた。六十二歳。銀髪を完璧なシニヨンに結い上げ、おそらくは大抵の人間が乗る車より高価なスーツに身を包んでいる。

「それで」彼女の声は、刃物のように静寂を切り裂いた。「あなたが、私の息子を誑かした女ね」

挨拶もなければ、お世辞もない。ただ、冷徹な品定めがあるだけだ。

「林田さん」なんとかそう口にしながら、私はヨガパンツの皺を伸ばした。彼女の完璧なブランド品と並ぶと、自分がまるで薄汚いスラムの住人のように思えた。「驚きましたわ。祐二さんから、海外からお戻りになるとは伺っていませんでしたので」

「海外は好都合だったのよ」彼女は私の言葉を遮り、まるで我が物顔で、限定品の高級バッグを大理石のサイドテーブルに放り投げた。「三年間も離れていてやったわ。息子が……こんなものと、ままごと遊びをするのを許してね」

彼女は、靴の裏にへばりついた何か不快なものでも見るかのように、私を指さした。

「けれど、我慢にも限界がある」彼女はバッグに手を伸ばし、マニラ封筒を引き抜いた。「特に、投資が利益を生まないとなればね」

医療書類が、舞い落ちる雪のように床に散らばった。身をかがめてそれを拾い上げると、そこに書かれた言葉が、まるで物理的な殴打のように私を打ちのめした。

「重度の生殖機能障害……広範囲にわたる内部瘢痕……自然妊娠の可能性は二パーセント未満……」

「私の息子が結婚したのは、子供も産めない役立たずじゃないの!」林田明美の声が、我が家の天井に響き渡った。「三年よ!三年間もあって、流産の一つすらしないなんて!」

書類を持つ手が震えた。これは、あの暴行事件の後の、私のプライベートな医療記録。私が子供を産めない身体にされた、あの事件の。

「これは、機密情報です」私は囁いた。「林田さんに何の権利が――」

「権利?」彼女は笑った。ガラスが砕けるような、甲高い笑い声だった。「この茶番劇に出資しているのは私よ!傷物に金を払っているんだから、どれだけ欠陥品かを知る権利くらい、当然あるでしょう!」

玄関のチャイムが鳴った。最悪のタイミングだ。

「明美おば様!」聞き慣れた声がした。「なんて素敵なお帰りのサプライズでしょう!」

黒石春子が、生まれたばかりの娘を抱いて玄関に立っていた。頭のてっぺんから爪先までブランド品で固めている。輝いていて、成功していて――私が持ち合わせていない、そのすべてだった。

「まあ、春子ちゃん!」林田明美の態度は一変した。「見て!なんて愛らしい天使なの!」

黒石春子はブランド品のヒールで滑るように前に進み出た。その笑みは温かく、心からのものだった――だが、それは林田明美にだけ向けられていた。

「紗代の様子を見に、ちょっと立ち寄ったんです」黒石春子は甘い声で言った。「昨日の……一件で、とても心を痛めているようでしたから」

昨日の、一件。彼女が健太を殺したと告白し、林田祐二が恋に骨抜きにされた子犬のようにそれを聞いていた、あの録音のことだ。

「この家にも、ようやく結果を出す人間がいたのね」林田明美は赤ん坊をあやすように言った。「お名前はなんて言ったかしら?」

「薔薇です。生まれたと同時に黒石信託から自分の分を相続しまして、二億円になります」黒石春子の声には、控えめな誇りがちょうど良い塩梅で含まれていた。「亮さんは、子供たちの将来は早くから確保しておくべきだという考えなんです」

林田明美の目が強欲に輝いた。「黒石信託!春子ちゃん、あなたがお嫁に来てくれていたら、今頃は林田の名を継ぐ孫が何人もいたでしょうに」

「まあ、おば様、お上手ですこと」黒石春子は謙遜してみせたが、その視線は林田明美の頭越しに私を捉えていた。その眼差しがすべてを物語っていた。「これはあなたのものだったかもしれない。でも、壊れてしまったあなたにその価値はない」と。

「青空邸でランチにするわ」林田明美が宣言した。「北都から飛んできた春子ちゃんにはちゃんとしたもてなしが必要だし、私も長旅の疲れを癒さないと」

「私はここに残ります」私は急いで言った。「お二人で積もる話も――」

「馬鹿なこと言わないで」黒石春子が滑らかに割り込んだ。「紗代が運転してちょうだい。いい運動になるわよ」

それは依頼ではなかった。

二十分後、私は林田祐二のレクサスで運転手役をやらされていた。後部座席に座る二人は、まるで私が壊れた電化製品であるかのように、私の生殖能力の欠如について議論していた。

「紗代、おばあさんみたいな運転ね」林田明美が不満を漏らした。「どうりで何も生産的なことができないわけだわ。効率というものがまるでない」

黒石春子は同情するように笑った。「まあ、おば様、彼女も大変なトラウマを経験していますから。傷ついた女性というのは、時として……その、能力を失ってしまうものなんですよ」

傷ついた女性。まるで、繁殖能力のない家畜みたいに。

「トラウマなんて、弱い人間の言い訳よ」林田明美は鼻で笑った。「私はこの町に裸一貫で渡ってきて、何億もの価値がある事業帝国を築き上げ、それでも健康な子供を三人も産んでみせたわ。今の女は情けない」

まるで私がそこにいないかのように、二人は話し続けた。黒石春子は黒石亮との完璧な生活と増え続ける家族について語り、林田明美は息子の「貧相な投資選択」にどれほど失望しているかを事細かに説明した。

青空邸に着くと、林田明美は王様が臣下を退けるかのように私に向き直った。「車で待ってなさい。このランチは、社会で自分の居場所を勝ち取った女性のためのものよ」

私は二人が大理石のロビーに消えていくのを見送った。そのヒールの音は、共有された優越感でカツカツと響いていた。

だが、私は車で待たなかった。

十五分後、私はトイレを借りる口実でレストランに入った。しかし、個室のダイニングルームを通り過ぎようとした時、わずかに開いたドアから声が聞こえてきた。

男の声。その中に、私の血を凍らせる声があった。

林田祐二がいた。私の夫が、黒石春子と彼の母親と昼食を共にしていたのだ。その間、私は駐車場番に追いやられていたというのに。

「なぜ、あの問題を永久に排除してしまえないの?」林田明美の声は鋭く、苛立っていた。「彼女はもう役目を果たしたわ。健太の一件の後、あなたを安定させるという役目をね。でも今は、ただのお荷物よ」

「母さん、ただ離婚するわけにはいかないんだ」林田祐二の声は苦しげだった。「もし彼女が不安定になって、俺たちがしたことを話し始めたら――」

「それなら、離婚しなければいいのよ」鋼に絹をまとわせたような黒石春子の声が割って入った。「星和では事故なんて日常茶飯事よ。かわいそうに、両親の家の火事でまだトラウマを抱えていたのね……きっと、立ち直れなかったのよ」

食器が皿に当たるカチャリという音。スープをすすりながら、気楽に殺人を計画している。

「春子ちゃんの言う通りね」林田明美が同意した。「悲劇的な自殺なら、疑惑よりも同情を生むわ。かわいそうな林田祐二。心に問題を抱えた妻を、内なる悪魔に奪われてしまった、とね」

「でも、タイミングはどうする?」林田祐二が尋ねた。「両親の件から近すぎると、疑問を持たれるかもしれない」

「適切な医療記録があれば問題ないわ」黒石春子は滑らかに言った。「鬱病、PTSD、サバイバーズ・ギルト。書類上の証拠を捏造できる知り合いがいるの」

膝から崩れ落ちそうになった。彼らは私を殺そうと計画しているだけではない。私が自殺したように見せかけるつもりなのだ。

「彼女がいなくなれば」林田明美が続けた。「あなたはふさわしい相手と自由に結婚できる。ちゃんと家系を存続させられる相手とね」

「春子のような、ね」林田祐二が期待を込めて言った。「彼女と黒石亮の結婚が終わりを告げれば――」

「思い上がらないで」黒石春子の声は鋭かった。「私は黒石の名で帝国を築いているの。でも、私たちにはいつだって……特別な繋がりがあるわ」

特別な繋がり。十五年間、彼は彼女を崇拝し、彼女は彼を汚れ仕事のために利用してきた。

私はドアから後ずさった。心臓が肋骨を激しく打ちつけていた。彼らは私の死を計画しているだけではない。私の後釜まで計画していたのだ。

家までの運転は苦痛だった。林田明美は私が女としていかに失敗したかを延々と説明し、黒石春子は硫酸よりもひどく焼けるような偽りの同情を示した。

「あなたに六ヶ月あげるわ」私道を車で進むと、林田明美が宣告した。「六ヶ月以内に妊娠するか、私の息子の人生から永久に消えるか、どちらかよ」

「おば様、それは少し厳しすぎますわ」黒石春子は言ったが、その口調はそれが至極まっとうなことだと考えていることを示唆していた。「でも、お気持ちはわかります。結婚には結果が伴うべきですものね」

結果。子供。家系。私が彼らに与えられない、そのすべて。

「わかったの?」林田明美が要求した。

「はい」私は囁いた。

「よろしい。じゃあ、荷物を運ぶのを手伝って。少しは役に立ちなさい」

その夜、午後十一時。私は一人で寝室に座っていた。林田祐二はまだ「会議中」――おそらく黒石春子と祝杯をあげているのだろう。林田明美は家で一番良い部屋を陣取った後、ゲスト用の棟に引きこもっていた。

ベッドの向かいにある鏡に映る自分を見つめた。黒石春子と林田祐二が、獣のように交わりながら私の破滅を計画した、あのベッドだ。

「傷物」私は鏡の中の自分に言った。「お荷物。排除されるべき問題」

彼らの言葉が頭の中で響いた。だが、何かが変わっていた。怯え、感謝していた犠牲者はもういない。

私は携帯電話を手に取り、桜井直人の連絡先までスクロールした。

「直人?そっちは夜遅い時間よね。星和まで、どれくらいで来れる?……ええ、緊急よ。それと直人、撮影機材も持ってきて。彼らが一生忘れられないようなパフォーマンスを見せてあげるから」

電話を切り、窓辺に歩いて街の灯りを見下ろした。

「黒石春子」私は囁いた。「林田明美。林田祐二。私が排除されるべき問題だと思ってるの?」

数ヶ月ぶりに笑みがこぼれた。それは、冷たい笑みだった。

「本当の問題っていうのが、どういうものか見せてあげるわ」

前のチャプター
次のチャプター