第8章
三年後、まさか雨の中、林田祐二の墓の前に立つことになるとは思ってもみなかった。
国立墓地はほとんど人気がなかった――いるのは私と神官、そして林田祐二が死んだ刑務所の看守が二人だけ。すい臓がんの末期と診断されたが、診断から1年半、彼は生き続けた。
最期の数週間、彼は何百通もの手紙を書いた。すべて、すでに死んでいる春子宛てに。刑務所の精神科医によれば、彼は春子の死を決して受け入れず、彼女が自分を愛し返してくれたと信じ続けていたという。
どこまでも哀れな男だ。
「本日、ここに集いし我々は……」神官が簡略化された式次第を始めた。
私はほとんど聞いていなかった。悲しむためでも、区切...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
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