第65章 まだそんなに無邪気だ

真田辰則は通話を終えると、踵を返してリビングへ戻った。

水原初歌は服の裾を指先でねじりながら近づき、「辰則……わ、私、ただの衝動だったの。昨日……あの女が私に失礼なことを言って……私たちの子どものことまで呪うようなことを言ったから、どうしても許せなくて……」と縋るように言う。

瞳には涙が滲んでいる。けれどそれ以上は言葉が続かなかった。男が、真田司久の存在をもう知っているのかどうか、確信が持てない。

窓の外では、雲が月を覆い、街の上に重く垂れ込めていた。今にも豪雨が来そうな空。

――まるで彼の目だ。

黒く、深く、静かで、危険で。嵐の前触れみたいに。

「衝動、ね」

真田辰則は冷たく...

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