第122章

「こいつ……俺のこと、調べてやがる」

その瞬間、井村明人の脳内には陰謀論めいた仮説が雪崩れ込んだ。

受話口の向こうで、女がくすりと笑う。柔らかく、艶を含んだ声。

「さっき言ったでしょう? 私が誰かなんて重要じゃない。どうしても知りたいなら……そうね、困ってる人を見過ごせない通りすがり、ってことでいいわ」

「私、基本的に善良なの。いちばん嫌いなのは、人の命を命とも思わない――そんな人殺しよ」

「命」という言葉が、井村明人の胸を鋭く刺した。

兄貴はいま、重篤病棟で生死の境をさまよっている。なのに旭日製薬の木田平人は、まともに向き合おうとせず、のらりくらりと言い訳ばかりだ。

腹の底か...

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