第26章

 ここで半世紀以上暮らしてきたんだ。あの家の素性を知らないわけがない。出世するような人間は、とっくに引っ越してる。

「……待って、なんでうちの棟で止まった?」

 息子の声が震えていた。まるで競技場の実況みたいに、裏返った声で叫ぶ。

「ドアが開いた! 人が降りた! ほんとに……うちの棟だ!」

 これには、ひとりで食卓に向かっていた母親も堪えきれなかった。玄関の扉をほんの少しだけ開け、こそこそと外を覗く。

 すると、二台目の車のドアが開いた。助手席から駆け降りた男が、後部座席のドアを恭しく開ける。そこから迎え出されたのは、背筋の通った、すらりと長身の男だった。

 肩幅があり、脚が長い...

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