第36章

橘がかった夕陽が大地をやわらかく染め、噴水の水面には桃色の雲が揺れていた。行き交う使用人たちはそれぞれの持ち場をこなし、庭は不思議なくらい整然としている。

北欧風のローテーブルには、食べかけのマカロンが半分ほど。

時間が経つにつれ、夕陽は彼女の寝椅子へとゆっくり移り、肌に触れる温度は心地よい。何もかもが――ちょうどいい。

寝椅子の上のクラッチバッグがぶる、と震えた。福部優子は小指を立てるようにカップを持ち、紅茶をひと口。そうしてから、のんびりとバッグの中からスマホを取り出す。

「剛人、もうご飯は食べた?」

優子は立ち上がり、階段へ向かった。庭は人の目が多い。電話をする場所じゃない。...

ログインして続きを読む