第26章

浅尾尚樹の体は一瞬で硬直した。

口に出かかった言葉が、どういうわけか一言も出てこなくなった。

今夜、細川明美をバーに連れてきたことを後悔し始めた。明日彼女が酔いから覚めた後、二人はどうやって向き合えばいいのだろう?

だが、皮肉なことに細川明美というこの酔っ払いは少しの異変も感じ取れず、満足げに再び彼の匂いを深く嗅いだ。

彼女は今、自分が何か言うべきだと思ったが、何が言えるだろう?

浅尾尚樹はいつも自分に冷たい態度を取っている。もし間違ったことを言えば、その場に置き去りにされるのではないだろうか?

頭をひねって必死に考えた後、彼女は突然にやりと笑った。

彼の耳元に近づき、小さな声...

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