第56章

道端に放り出された人間というのは、いつだって惨めなものだ。細川明美はバッグから濡れティッシュを取り出した。

背後の花壇を軽く拭いてから腰を下ろした。

彼女が着ているコートは今年のランウェイの新作で、決して安くはない。

だが今の細川明美にとって、それはただ寒さをしのぐだけの代物でしかなかった。

強風が彼女の髪を揃えるように吹き抜ける中、彼女は考えていた。

かつて浅尾武治の誕生日に、彼女が心を込めて選び、友達全員に相談までして買ったプレゼントは何だったのだろう?

自分の頭がおかしかっただけだ。

佐藤静香がここにいたら、きっとそう言うだろう。

もう佐藤静香がそれを言う時の、もどかし...

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