第7章
細川明美の声は驚きのあまり、どもり始めた。
しかし浅尾武治はそれに気づかなかった。というより、彼は細川明美が自分に嘘をつくとは考えもしなかったのだろう。
「よかった。昨夜もどこにいるか教えてくれなかったから、部屋に誘ったのに騙されたのかと思ったよ。朝早くから学校に来たのに、ルームメイトはお前がいないって言うし」
彼女は黙っていた。浅尾武治は気にせず話し続けた。
「そうだ、俺が交番に入ったことは絶対に家の人に言うなよ。バレたら皮を剥がれるぞ!わかってるな?」
細川明美は「わかった」と答えようとしたが、隣には浅尾尚樹が自分を見つめていた。
実は...
彼女はもう話してしまっていた...
でも浅尾尚樹と浅尾家の関係はあまり良くないようだから、きっと言いふらさないだろう...
ちょうどその時、浅尾尚樹が顔を向けた。二人の視線が一瞬で交わった。
細川明美はすぐに恥ずかしくなって顔を伏せ、もう彼の目を見る勇気がなかった。
おかしい、自分は何も悪いことをしていないのに、なぜこんなに後ろめたいのだろう?
「わかったわ、安心して」
「今日は交番に残りの問題を処理しに行くから、全部終わったら食事に誘うよ!」
浅尾武治はいつものように、食事一回で細川明美をなだめようとしていた。
細川明美は黙ってうなずき、電話は切れた。
窓の外の景色を見ながら、細川明美は急に頭の中がぐちゃぐちゃになったような気がした。
もうすぐ卒業だし、お父さんお母さんも浅尾武治との婚約について暗に示唆し続けていた。
彼女が浅尾武治がいつ告白してくれるのかと思っていた矢先。
彼は突然、恋人ができたと打ち明けたのだ。
これは彼女が全く想像していなかった展開だった。彼女の心の中では、彼はもう将来の夫だったのだから。
浅尾尚樹の言う通り、どんな結末になろうとも、自分のお父さんお母さんに話さなければならない。
二人のこのはっきりしない関係は何なのだろう?
ドアがまた叩かれ、彼女が立ち上がろうとした時には、浅尾尚樹がすでに一歩早くドアに向かっていた。
そして突然、高級ブランドの紙袋が彼女の手に渡された。
「外は雨は止んだけど、まだ寒いよ。君の服は薄すぎるから、これを着ていって」
それは新品のふわふわとしたコートで、生地を触れば高価なものだとわかる。しかも細川明美のサイズにぴったりだった。
彼女は胸が痛くなった。
「ありがとう」
言ってから何か変だと思い、急いで付け加えた。
「いくらか今すぐ振り込むわ。昨夜はすでに迷惑をかけたのに」
彼女は慌てて携帯電話を取り出したが、浅尾尚樹の手がしっかりと彼女の携帯を押さえた。
「そんなに気を遣わなくていいよ。もうすぐ誕生日だろう?この何年も誕生日プレゼントをあげたことがなかったから、これを誕生日プレゼントにしよう」
細川明美は驚いた。彼がどうして自分の誕生日を知っているのだろう?
このプレゼント、受け取るべきか迷った。
確かに彼女は今までに彼からプレゼントをもらったことがなかった。それは二人の関係があまりにも気まずかったからだ。
半分一緒に育った幼なじみのようなものだが、子供の頃に彼をいじめていた事実は変えられない。
そして誕生日のたびに浅尾武治がいたため、彼女は誕生日に浅尾尚樹を呼んだことがなかった。
二人が会えば、何が起こるかわからなかったから。
今回も彼を誘うつもりはなかったのに、彼が突然この話題を持ち出してきた。
自分はとぼけるわけにもいかないだろう?
しかし彼を自分の誕生日に招待することは明らかに無理だった。浅尾武治が怒って机をひっくり返さないはずがない。
彼女は必死に両方を満足させる方法を考えた。
「あなたの誕生日には何が欲しい?その時にプレゼントするわ!」
浅尾尚樹も自分が彼女の誕生日に現れることができないことを理解していた。感情のない淡々とした口調で言った。
「気にしなくていい。僕の誕生日はもう過ぎたし、それに…」
「誕生日を祝うのは好きじゃないんだ」
彼女は歩きながら、今日の浅尾尚樹との会話を思い返していた。
ふと一つのことを思い出した。浅尾尚樹の誕生日は、確か今年の秋だった。
それをはっきり覚えているのは、あの秋の日、
浅尾尚樹が再び浅尾武治のいじめに遭い、体中に怪我を負っていたからだ。
浅尾お母さんは当然自分の息子をかばい、彼には目もくれなかった。
浅尾お父さんも知らんぷりで、形だけの慰めの言葉をかけた後は無視していた。
どんなに強い子供でもこのつらさには耐えられない。その日、彼は家出して自分のお母さんを探しに行った。
「このバカ、自分の父親にも見捨てられたのに、母親が大事にするわけないだろ?本当に大切なら浅尾家に送ったりしないよ」
浅尾武治はこの過去について話す時も、明らかな嘲笑を込めていた。
「あの女は彼を見るなり蹴りを入れた。玄関にも入れず、外に立たせて一晩中凍えさせたらしい。夜が明けるとすぐに送り返してきて、その夜には高熱を出した。本当に哀れだよ」
彼はこの出来事を笑い話のように友達全員に話した。
みんなも浅尾尚樹のこの行動がバカバカしいと思ったのか、大笑いした。
でも細川明美だけはその場に立ったまま、何も言わなかった。
あの時の浅尾尚樹は、きっと…とても悲しかったのだろう?
細川明美が寮に戻ると、ルームメイトの佐藤静香がすぐに近づいてきた。
「あら、朝早くに浅尾武治から電話があってね、どこに行ったのかって聞かれたけど。どうしたの?喧嘩でもしたの?」
細川明美は、あの清潔な香りのするコートをそっとクローゼットに掛けた。
なぜか浅尾尚樹の顔が浮かび、すぐに避けるように咳払いをした。
「ううん、昨夜は用事を済ませてすぐに帰ったの。私たち…一緒にいなかったわ」
佐藤静香は驚いて目を丸くし、外の地面に広がる水たまりを見た。
「どういうこと?昨夜あんなに大雨が降ったのに、彼は一人の女の子を帰らせたの?最低な男ね!」
細川明美は少し困った様子で説明した。
「私たちは付き合ってないの。知ってるでしょ、彼はずっと私を妹のように思ってて、他の感情を表したことなんてないわ」
自分の説明が十分だと思ったが、佐藤静香は全く信じていなかった。
「もう明美ちゃん!私たちを騙さないでよ!あなたたちの関係は見ていればわかるわ。私たちはもう友達じゃないの?恋愛関係も隠すなんて!」
みんながまた騒ぎ始めるのを見て、細川明美は焦って顔を赤くし、ついに言った。
「違うの、彼にはもう彼女がいるの。昨夜は彼の彼女が誰かと喧嘩して、それで私は警察署に行っただけ!彼は彼女と一緒に寝て、私は一人でホテルに泊まったのよ!」
言葉が落ちると、賑やかだった寮は一瞬にして静まり返った。
佐藤静香だけでなく、寮で他のことをしていたルームメイトたちも驚いて手を止めた。
みんな頭の中で細川明美の言葉を必死に理解しようとしていた。
この息詰まる雰囲気が丸一分続いた後、ようやく佐藤静香が苦しそうに口を開いた。
「彼に彼女ができたの?」
「そう」
「その女、会ったの?」
「うん」






















































