第1章
玲奈視点
トイレの個室のドアが蹴り破られ、私の顔面に叩きつけられた。痛みが引く間もなく、三人の女子が狭い空間を埋め尽くした。
「あら、誰かと思えば。高峰の飼い犬じゃない」高橋麻美――女子グループの中心人物――が、私の歴史の教科書を掴み取ると、にやつきながら無慈悲に真っ二つに引き裂いた。
私は冷たいタイルの壁まで後ずさる。「やめて。なぜそんなことを」
「あらら、そんなひどい言い方をしないでよ。私はただ親切に、あなたに自分の立場を理解してもらっただけじゃない?」松本綾子が嘲笑い、その真っ赤な爪を私の肩に食い込ませる。「あんたのお父さんは、あんたが学校でこんな負け犬か知ってんのかしらね? ん?――新川市南地区で最も恐ろしい男が、自分の娘が学校でこんな惨めな姿をしているのを知っているのかしら?」
三人目の女子が、私の髪を強く引っ張った。「どうせヤクザの娘なんて誰も信じないわよ。誰があんたを助けるっていうの? 高峰玲奈」
麻美が私の顎を掴んだ。「あんたの父親が有力な支持者を探してるって聞いたわ。そしてあんたは支持者への見返りとして——ハ、あんたにぴったりじゃない?あんたもあんたの母親も、所詮はヤクザのおもちゃでしかないじゃない」
母親のことを口にするな、絶対に許さない。
私の中で、何かがぷつりと切れた。――ふざけるな! 心の中で叫び、私は麻美のお腹を突き飛ばした。彼女がくの字に折れ曲がるのを尻目に、他の二人を突き飛ばしてトイレから飛び出した。
誰もいない廊下が目の前に伸び、背後から足音が追いかけてくる。非常口のドアを突き破ると、冷たい空気が肺を焼いた。
そして、彼らを見た。
校門のそばに停められた黒いSUVに寄りかかる、三人の刺青を入れたチンピラ――親父の車だ。彼らは一斉にこちらを向き、その瞳には、私が見慣れすぎた欲望と残酷さが満ちていた。――まさか、本当に「仕事」のために迎えを寄越すなんて。
胃が凍りつくのを感じながら、私は踵を返し、校舎の壁沿いに逃げ出した。
みぞれが降り始め、氷の粒が薄いブレザーを打つ。半分溶けた雪にスニーカーが滑り、一度よろけた後、鼻を突くゴミ収集コンテナの陰に身を潜めた。
震えが止まらない。寒さのせいか、恐怖のせいか。氷のようなみぞれが頬を伝い、視界をぼやかす。だがそれ以上に視界を滲ませるのは、何度も蘇るあの記憶――決して逃れることのできない悪夢だった。
三年前の、あの日曜日。
バスルームのドアに鍵はかかっていなかった。ママのヘアジェルを借りようとドアを開けた。そして、彼女を見た――高峰絵理奈、かつて新川市で最も美しいモデルと謳われた母が――浴槽の中で動かなくなっていた。水は赤く染まり、彼女の手首には深い傷があった。
悲鳴を上げて駆け寄ろうとした私を、走ってきた父が乱暴に引き剥がした。
「触るな」高峰龍一は冷たく言った。「あいつは弱かった。お前と一緒だ」
それから父の暴力は止まなかった。最初は平手打ち、次にベルト、しまいには手当たり次第、掴んだもので殴られた。酒が入ると、父はさらに凶暴になった。
つい昨夜も、酔った父は長いこと私をじっと見つめていた。骨の髄まで凍りつくような視線で。
「お前の母親の顔で、俺はさんざん稼がせてもらった」父はにやりと笑った。「お前はあいつに似ている。そろそろ俺に恩返しをしてもらう頃合いだな。正志がお前のことを綺麗だと言っていた。明日はあいつと一緒に行ってもらう」
正志。いつもねっとりとした視線で私を見る、父の右腕。彼に引き渡されることを考えると、胃がひっくり返りそうになる。
私は歯を食いしばり、顔のみぞれを拭った。夕闇は深まり、気温はさらに下がっていく。あの地獄に戻らなければならない。少なくとも、金と暖かい服を手に入れるために。もしかしたら、親父は二日酔いで潰れているかもしれない。
私たちの住む古いアパートの錠は、何年も前から壊れたままだった。私は三階まで忍び足で上がり、どんな物音も聞き逃すまいと耳を澄ませた。――お願い、いませんように。
ドアに鍵はかかっていなかった。ゆっくりと押し開けると、アルコールと煙草の悪臭が充満した暗闇が広がっていた。壁の黒カビの染みが、薄暗がりの中でうごめいているように見える。床にはビールの空き瓶や持ち帰り用の容器が散乱していた。
マットレスの下に隠したなけなしの金を掴もうと、私は自分の寝室に向かってつま先立ちで歩いた。
「帰り、遅かったじゃねえか」
ソファの方から聞こえてきた声に、私は心臓の芯まで凍りついた。部屋の隅のランプが不意に灯り、そこに座る父の姿を照らし出した。手には半分ほど残ったウイスキーのボトルが握られていた。
「学校の……用事があったから」私はささやき、どうにか自室へとにじり寄ろうとした。
「そこにいろ」と、父が命じた。「今日の昼過ぎ、正志が来たぞ。お前に会えなくてがっかりしてた。土産も持ってきてくれた」そう言って父が指差したコーヒーテーブルの上には、安物のネックレスが入った小さな箱が置かれていた。
胃がねじれるようだった。「会わない。そんなこと、しない」
父は突然立ち上がり、唸るように言った。「てめえに選択肢があると思ってんのか? 俺の家に住み、俺の飯を食ってるくせによ。大人しく言うことを聞くか、さもなきゃこの部屋から生きて出られねえか、どっちかだ。分かったか、この売女が」
私は勇気を振り絞って叫んだ。「ママみたいになるくらいなら、死んだ方がマシよ! 私はあなたの所有物じゃない! そんな取引なんて絶対にイヤ!」
父の顔が歪んだ。ボトルが壁に叩きつけられ、ガラスの破片がそこら中に飛び散った。
「生意気な口を利くとどうなるか、思い知らせてやる!」父は私に飛びかかってきた。「てめえは何様のつもりだ? 俺がいなけりゃ、てめえは何もできねえんだよ!」
拳が雨のように降り注いだ。床にうずくまると、口の中に鉄の味が広がった。父は私の肋骨を蹴り上げ、鈍い痛みが走る。その痛みで、意識が飛びそうになった。
――今回のは違う。心の中で声が叫んだ。――本気で殺される。
父が「恩知らずのクソ女が」と罵りながら、キッチンへ次のボトルを取りに行った隙に、私は必死で立ち上がった。ドアが果てしなく遠く感じた。痛みで視界が霞む。それでも、生き残りたいという本能が私を前に押しやった。
背後で父の怒声が爆発するのと、私の手がドアノブを掴んだのは同時だった。私はすでに外にいて、よろめきながら階段を駆け下りていた。
激しい雪が街を包んでいた。雪の中を走った。口から滴る血が、白い雪の上に暗赤色の跡を残していく。目的地はない。ただ、あの地獄から遠くへ。
視界は次第にぼやけ、折れた肋骨のせいで息をするのも拷問のようだった。前方に廃墟のシルエットを見つけ、私は打ちのめされた体を引きずってそちらへ向かった。
ついに足がもつれ、私は建物の影の下、雪の中に崩れ落ちた。薄れていく意識の中で、思った。これが終わりなら、少なくとも、私は屈しなかった。最後の尊厳だけは、守り抜いた、と。
闇が私を飲み込み、不思議なことに、冷たさが温かさに変わっていった。遠くでエンジンの音が聞こえ、目を眩ませるようなヘッドライトが見えた。
そして、男の声がした。乱暴なのに、どこか安心させるような声だった。「おい、大丈夫か、お嬢ちゃん」
これは幻覚? それとも、死の呼び声?
意識が完全に途切れる直前、ただ一つだけ思った。これが何であれ、もうあの家には戻りたくない、と。








