第2章

玲奈視点

私は炎と氷の狭間でもがいていた。

服は汗でぐっしょり濡れているのに、寒くて震えが止まらない。全身が車にでも轢かれたかのように痛む。息をするだけで、肋骨に鋭い痛みが走る。

朦朧とする意識の中、誰かが私に触れているのを感じた。温かい手が燃えるように熱い額を拭い、ひやりと冷たい濡れ布巾が肌に押し当てられる。こんなはずはない。誰も私にこんな風に接したりしない。

はっと目を開くと、眩しい光に思わず目を細めた。私の部屋じゃない。壁は淡い黄色で、シーツは清潔で、洗濯洗剤の匂いがした。窓の外では、陽光が差し込む中を雪が舞っていた。

恐怖が電流のように全身を駆け巡った。ここはどこだ? 誰に連れてこられたんだ?

身を起こそうともがいたが、肋骨の激痛に思わず息を呑んだ。

「目が覚めたのね!」女性の声に、びくりと身をこわばらせる。出入り口には、湯気の立つマグカップを手にした、背の高い痩せた女性が立っていた。三十代前半くらいだろうか。茶色い髪を緩く後ろで束ね、笑みを浮かべている。

「触らないで!」と、私はかすれた声で叫び、痛む体を引きずってベッドから降りたものの、めまいで床に崩れ落ちてしまった。「あんた誰? 私を……送り返す気?」

彼女はマグカップを置いた。「誰もあなたを送り返したりしないわ。ここは安全よ。私は小林梨沙。昨日の夜、弟の晴人が雪の中であなたを見つけたの」

壁に寄りかかり、荒い息をつく。「ここは……どこなんだ?」

「私たちの家よ。緑町三丁目十八番地」彼女は私の目線まで屈んでくれた。「ひどい怪我をしてる。肋骨が二本折れてて、軽い脳震盪も。休まないとだめよ」

私は彼女の瞳をじっと見つめ、敵意の兆候を探った。南地区では、親切にはたいてい代償が伴う。

外で物音がして、続いて男の無骨な声が聞こえた。「梨沙! またあのクソ春雄が庭をうろついてやがるぞ」

私はとっさに隅の方へ身を縮めた。出入り口に長身の影が現れた――黒い短髪、彫りの深い顔立ち、作業ズボンにフランネルのシャツという格好だ。彼は私が起きているのに気づくと、動きを止めた。

「起きたか」と、彼はぶっきらぼうに言った。鋭い視線が私を値踏みするように一瞥する。

晴人は窓の方へ向き直り、カーテンをぴしゃりと閉めた。「あの春雄のじじい、いっつも他人のことに首を突っ込みやがって。玄関先でぶつぶつ言ってたぜ。『また厄介事を拾ってきやがって』とか、姉さんを『イカれた女』呼ばわりしたりな」

「放っておいて」梨沙は再び温かいスープを手に取った。「ただの寂しいおじいさんなのよ」彼女は私に向き直り、「あなたの名前は?」と尋ねた。

私は唇を固く結んだ。

「言いたくなきゃ言わなくていい」晴人は腕を組んでドアフレームに寄りかかった。「言えるようになったら教えてくれ。だが、誰かがあんたを探しているのか、あんたを傷つけようとしてる奴がいるのかは知る必要がある」

私は苦笑いを浮かべた。「みんな」

部屋が静まり返った。

「ここでは誰もあんたを傷つけたりしねえよ」と、やがて晴人が静かに言った。「少なくとも、今はな」

―――

その後の数時間は、熱に浮かされた霞の中へと溶けていった。梨沙は数時間おきに様子を見に来ては、薬を飲ませ、氷嚢を取り替え、温かいスープを飲ませてくれた。

「少し熱が下がったわね」と、彼女は私の額に手を当てながら言った。「でも、まだ安静にしてないと」

「どうして助けてくれるの? 私のこと、何も知らないくせに」

梨沙はベッドの端に腰掛けた。「助けを必要としている人に、理由なんていらないわ。それに、晴人が言ってた。雪の中で死なせるには、あなたは若すぎるって」

私は頷いたが、疑念は晴れなかった。南地区では、理由もなく良いことなんて起こらない。特に、私みたいな人間には。

夜になり、喉の渇きに耐えかねてベッドから這い出した。痛みに耐えながら、片手で肋骨を押さえ、もう片方の手で壁を支えにして、廊下の突き当りから漏れる微かな光を目指してゆっくりと進んだ。

キッチンの入り口にたどり着く直前、潜めた言い争う声が聞こえてきた。

「梨沙、未成年を勝手に保護するなんてダメだ! 違法だぞ!」晴人の声には不安が滲んでいた。「誰かがこの子を探してたらどうするんだ?」

「じゃあ、殴り殺されるためにあの子を送り返す方がよっぽど合法的だって言うの?」梨沙が反論する。「あなたもあの子の怪我を見たでしょ、晴人。あれは一度の喧嘩でできたものじゃない。継続的な虐待よ。タバコの火傷も含めて、新旧合わせて数十箇所もの怪我があるわ!」

胸が重くなった。彼らは私を送り返すつもりなのだ。

「わかってる。だが慎重にならないと。もしあの子が――」

「もしあの子が何ですって? 危険な人物の娘だったら? なおさら保護すべき理由になるじゃない!」梨沙が遮る。「忘れないで、私たちだって一度は助けが必要だったのよ、晴人。あの時、淳さんが助けてくれなかったら、あなたはもしかしたら――」

「淳さんの名前を出すな」晴人の声が、とたんに冷たくなった。「これは話が違う」

私はうっかり壁の写真立てにぶつかってしまい、ことりと小さな音を立ててしまった。言い争いがぴたりと止む。

「誰だ?」晴人が用心深く尋ねた。

深呼吸をして、私はキッチンの明かりの中へと足を踏み入れた。二人とも振り返る――梨沙はテーブルに座り、晴人は流し台のそばに水の入ったグラスを手に立っていた。

「ごめんなさい」私の声はかすれていた。「水が飲みたかっただけ」

「座れ」彼は空いている椅子を指さした。

私は彼が差し出したグラスを受け取り、注意深く腰を下ろした。ちょうどいい温度だった。ごくりと長く飲むと、冷たい水が焼けるような喉を癒してくれた。

彼らは私を送り返すつもりなのだ。そう悟ると、パニックがこみ上げてくるのを感じた。

「何でもするから……掃除でも、料理でも……」私の声は震え、羞恥心が全身を覆った。「お願いだから、送り返さないで。殺される。大げさじゃなくて、本当に殺されるの」

晴人の視線が鋭くなる。「誰にやられた?」

私はグラスを置き、指でそれをきつく握りしめた。突拍子もない考えが頭をよぎる――真実を話すんだ。もし本当に助けてくれる気があるなら、彼らは自分たちが誰を相手にしているのか知るべきだ。

「私の名前は、高峰玲奈」私はついにそう言って、晴人の目をまっすぐ見つめた。「高峰龍一の、娘です」

部屋の空気が一瞬で凍りついた。梨沙は息を呑み、晴人の表情は驚きから、もっと複雑なものへと変わった。

あの人のことを知らないはずがない。南地区で高峰龍一を知らない人間なんていない。

「高峰」晴人はゆっくりと繰り返した。「龍一の娘か?」

私はびくりとしながらも頷き、拒絶される覚悟をした。結局のところ、父さんに逆らおうとする人間などいやしないのだ。

意外にも、晴人はただ深くため息をついただけだった。「ここでは誰もあんたを傷つけたりしない、玲奈。少なくとも今夜はゆっくり休め。残りのことは明日考えよう」

自分の耳が信じられなかった。私が誰なのか知ってもなお、彼は私を追い出さなかった。

「どうして?」私は声を絞り出した。「どうして助けてくれるの? 彼が誰で、何をするか知ってるでしょう」

晴人は黙って私を見つめていた。「それが、正しいことだからだ」

梨沙がそっと彼の方に手を置いた。「それに、誰にだってやり直すチャンスは必要でしょう、晴人?」

二人の間で、言葉にならない何かが交わされた。その意味は分からなかったけれど、その背後にある物語を感じ取った。

私は俯いて水を飲んだ。いつの間にか涙がグラスに落ちていた。こんな風に――傷つけられるのではなく、気遣われる――と感じたのは、ずいぶん久しぶりだった。

「奴はあんたがどこにいるか知ってるのか?」晴人が不意に尋ねた。

私は首を横に振った。「逃げ出した時、父さんは酔っ払ってた。どこかのゴミ箱で死んでるって思ってるんじゃないかな」私は笑おうとした。「初めてのことじゃないし。ただ……今回は、完全にキレてた」

「なぜ?」梨沙が優しく尋ねた。

私は俯き、羞恥心が全身に広がった。「断ったから……」最後まで言い終えることができなかった。「父さんが用意した『仕事』を。彼の手下の一人に私を渡そうとしたの。昔、母さんにしたみたいに」

その言葉を口にすると、自分が無防備で脆くなったように感じたが、同時にどこかほっとした気持ちにもなった。

晴人の表情が険しくなる。彼は梨沙と視線を交わし、立ち上がった。「お前は安全だ、玲奈。少なくともここでは、今夜はな。明日は何か手を考える」

客間に戻ると、梨沙が私を寝かしつけ、額に新しい氷嚢を置いてくれた。

彼女が立ち去ろうとした時、私は彼女の手を掴んだ。「ありがとう」

彼女は微笑んだ。「おやすみ、玲奈ちゃん。今夜は悪夢を見ないようにね」

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