第3章
玲奈視点
それからの一週間、私は小林家の客室でゆっくりと回復していった。肋骨の鋭い痛みは鈍い疼きに変わり、顔の痣も薄れ始めていた。毎朝目が覚めるたび、この生活が突然終わってしまうのではないかと怖くなる――追い出されるか、もっと悪いことに、父の元へ送り返されるのではないかと。
その朝、私はようやく壁に手をつかずに歩けるようになった。何か食べるものを探して、慎重にキッチンへと向かう。そこでは梨沙さんが料理の真っ最中で、部屋には陽の光が溢れ、美味しそうな匂いが満ちていた。
「おはよう、玲奈ちゃん」彼女は振り返って微笑んだ。「気分はどう?」
「ずっといいです」私は戸口に気まずく立ち尽くし、中に入っていいものか迷っていた。
梨沙さんは私のためらいに気づいた。「こっちに来て手伝ってくれない? パンケーキを作ってるの。卵を割ってくれる?」
彼女がボウルと卵をいくつか手渡してくれたので、私はゆっくりと近づいた。
「こうやって」梨沙さんはやってみせた。「縁に軽くコンと当てて、それから殻を割るのよ」
私は慎重に彼女の動きを真似したが、最初の一つはぐしゃりと割れてしまい、殻の破片がボウルの中に落ちた。ちくしょう!
「大丈夫よ」梨沙さんはあっさりと言った。「私も最初はそうだったわ。フォークで殻を取ればいいのよ」
私は驚いて彼女を見た。いつもの爆発を待っていた――父なら、ほんの些細な失敗でも激怒しただろう。だが、梨沙さんはただかき混ぜ続け、砂糖とバニラの加え方を教えてくれるだけだった。
「あれは……私の場所、ですか?」私はテーブルに用意された食器一式を指して、小声で尋ねた。
梨沙さんは振り向いた。「もちろんよ。どうして?」
私は首を横に振った。うまく説明できなかった。家では、決まった席なんてなかったから。実際、父の機嫌がよければ、キッチンの隅で立ったままか、自分の部屋に隠れて食事を済ませるのが常だった。
晴人さんが入ってくると、彼はテーブルを一瞥し、それから私を見た。「新しいキッチンアシスタントがいるみたいだな」
それが褒め言葉なのか、それとも皮肉なのか分からず、私は顔を赤らめた。でも、彼の口角がわずかに上がったのを見て、胸の中に温かいものが広がった。
パンケーキの中のチョコレートが舌の上でとろける。今まで食べた中で、たぶん一番美味しい。
「ありがとうございます」私はそっと言った。食事に対してだけじゃない。全てに対して。
「ここが俺の店だ」晴人さんはドアを押し開け、私を中に入れてくれた。
店内は清潔で整頓されており、壁には工具がきちんと並べられている。空気はモーターオイルと金属の匂いで重かった。大きな窓から陽光が差し込み、修理中の数台のバイクを照らし出していた。
「ここで本当にバイクを修理してるんですね?」私は辺りを見回した。
晴人さんは頷き、レンチを手に取った。「こいつが俺のまっとうな商売だ。何か問題でも?」
「いえ、ただ……」私はためらった。「南地区では、ほとんどの人が……まっとうな商売を選ばないから」
彼の口元が歪んだ。「だからこそ価値があるんだ」
隅に置かれた、半分分解されたバイクが私の目を引いた。
「あれ、なんていうモデルですか?」私はその黒いバイクに歩み寄った。
晴人さんは片眉を上げた。「ホンダCB400スーパーフォアだ。バイクに詳しいのか?」
私は首を振った。「いいえ。でも、機械は好きです。機械は……予測可能で、論理的で、人間みたいに複雑じゃないから」
彼は思案深げに私を見つめ、それからバイクへと歩み寄った。「このバイク、エンジンの調子が悪くて、まだ直す時間がなかったんだ。やってみるか?」
「私が、ですか?」私は驚いて顔を上げた。「私には無理だと……」
「誰にもお前に何ができないかなんて言わせるな」彼は私の目をまっすぐに見つめた。「一度やって、失敗して、またやる。それが俺のルールだ」
彼は私の後ろに立ち、キャブレターの分解を手ほどきしてくれた。彼の吐息が耳をかすめ、温かい胸が背中に触れそうになる。訳の分からない緊張感に襲われ、レンチを握る指が微かに震えた。
「力を抜け」耳元で彼の声がした。私の手を彼の手が覆い、震えを抑えてくれる。「こうだ」
ああ、彼の手のひらが、なんて温かいんだろう……。だめだ、しっかりしなきゃ!と心の中で自分に叫んだ。
二時間後、バイクのエンジンが滑らかに動いた時、私は思わず微笑んでいた。「やった!」
晴人さんは片眉を上げた。「器用な手をしてるな。センスがいい」
生まれて初めてもらった、心からの褒め言葉だった。どう返事をすればいいのか分からず、頬が熱くなるのを感じた。
「明日から」彼は不意に言った。「お前に護身術を教えてやる。南地区では、生き残るために必要なスキルだ」
それからの数日間、私は梨沙さんのキッチン仕事を手伝う傍ら、晴人さんの指導で護身術の基礎を学んだ。彼は相手の弱点を突く方法、冷静さを保つコツ、そして必要な時に逃げる術を教えてくれた。彼が技を実演するために体に触れるたび、私の心臓は高鳴った。
体だけでなく、心も強くなっているのを感じた。
二週間後、梨沙さんから学校に戻るべきだと言われた。
「でも」私は抗議した。「父の手下たちがそこで待っていたらどうするんですか?」
「連中はいない」晴人さんはきっぱりと言った。「一週間、学校を監視したが、怪しい人影はなかった。それに、お前が無事か確かめるために、俺が直接送り迎えしてやる」
復学初日、私は鏡の前に立ち、ほとんど自分だと認識できなかった。痣は消え、梨沙さんが新しい服を買うのを手伝ってくれ、髪ももう乱れてはいない。だが一番の変化は私の目だった――もう恐怖に満ちてはいなかった。
晴人さんが校門で車を止めると、私は深呼吸をし、かつて私を恐怖に陥れた場所と向き合う準備をした。
「いいか、四時に迎えに来る。何か問題があったら、俺に電話しろ」彼はシンプルな携帯電話を私に手渡した。
学校の事務室では、事務員が私を見て明らかに驚いた顔をした。「高峰さん、二週間も連絡なしで欠席していましたね」
「彼女は病気だったんです」晴人さんは落ち着いた声で言い、診断書を提出した。「今は復帰したので、遅れを取り戻す必要があります」
事務員は疑わしげに彼を見た。「あなたが保護者の方ですか?」
「はい」晴人さんはためらうことなく答えた。「詳しい情報が必要でしたら、私にご連絡ください」
事務室を出た後、私は小声で尋ねた。「今……私の保護者だって、嘘をつきましたよね?」
「嘘じゃない」彼は微笑んで答えた。「今、お前を守る責任があるのは俺だ」彼の言葉が胸に温かさを広げた。守られているというこの感覚は、とても異質でありながら、同時に心地よかった。
昼休み、私は隅に座って梨沙さんが用意してくれたサンドイッチを食べていた。突然、声が私の思考を遮った。
「よう、戻ってきたんだな」
顔を上げると、クラスメートの伊藤英樹が昼食のトレイを持って立っていた。
「うん」私は短く答えた。
「大輔のこと、聞いたか?」彼は急に声を低くして尋ねた。
心臓が跳ねた。「大輔? 彼がどうかしたの?」
大輔は学校での私の唯一の友達だった。もっとも、ほとんど昼食を一緒に食べるだけの仲だったが。
英樹はためらった後、私の向かいに座った。「大輔……死んだんだ。先週。南地区での暴力団の抗争でさ。ただ通りかかっただけなのに、流れ弾に当たって」
世界が私の周りで崩れ落ちるようだった。気分が悪くなり、サンドイッチがテーブルに落ちた。
「何ですって?」息も絶え絶えだった。
「警察は、ただ運が悪かっただけだって言ってた。たまたま悪い場所に居合わせただけだって」英樹は続けた。「その夜、あの辺りでは三件も銃撃戦があったらしい。彼はただの、罪のない犠牲者の一人だよ」
残りの授業をどう過ごしたかよく覚えていない。最後のチャイムが鳴ると、私は機械的に鞄に荷物を詰め、出口へと向かった。
晴人さんの車はもう待っていた。私は助手席に乗り込み、シートベルトを締め、何も言わなかった。雨が降り始め、フロントガラスを叩いていた。
「今日はどうだった?」彼は車を発進させた。
私は答えなかった。涙が静かに頬を伝った。
「彼が死んだの」私はついに、途切れ途切れの声で言った。「大輔が死んだの。ただ通りかかっただけで、暴力団の抗争に巻き込まれて……」
晴人さんは眉をひそめたが、私の話を遮らなかった。
「彼はただのいい人だったのに、それで命を落とした」涙で視界がぼやけながら、私は続けた。「どうしてこの街では、優しい人ばかりが早く死んでしまうの?」
晴人さんは車を路肩に寄せ、私の方を向いた。「玲奈、聞け。この世界は、いい人間に優しくない。特に南地区ではな」
「じゃあ、なんでいい人でいるの?」私は嗚咽交じりに尋ねた。
彼の表情は和らいだが、その瞳には何か決意のようなものが残っていた。「それが、俺たちが尊厳を保つ唯一の方法だからだ。俺も去年、大事な人を失った。その痛みは分かる」
私は彼の瞳に宿る悲しみに驚いて、彼を見上げた。彼はハンカチを差し出してくれた。
「どうやって、前に進み続けるの?」私はようやく尋ねた。「痛みは、いつになったら消えるの?」
晴人さんは、ガラスの上を曲がりくねって流れる雨の筋を眺めた。「消えはしない」彼は静かに言った。「だが、それと共に生きることを学び、それを使って強くなるんだ」
彼の手は私の顔にとどまったまま、温かく、揺るぎなかった。その瞬間、私は不意に彼の肩に寄りかかり、その安心感と強さを感じたくなった。だが、代わりに私は背筋を伸ばし、わずかに頷いた。
「ありがとうございます」
彼は再び車を発進させた。「帰ろう。梨沙がお前のお気に入りの料理を作って待ってる」








