第65章

桜井有菜は書類の中身を改めると、少し驚いた様子で野原を見つめた。

「これ……全部、私の名義になっていますけれど?」

 桜井有菜がそう問いかけると、野原は顔をほころばせた。

「当たり前ですよ、三女様! あたしはもう二世紀も生きた老婆ですがね、学はなくとも『軒を貸して母屋を取られる』ような真似がいけないことぐらい存じております。大奥様はあたしを使用人としてではなく扱ってくださいました。今のあたしがあるのは大奥様のおかげです。忘恩の徒にはなれませんよ」

 ここ数年、野原が稼いだ金や家賃収入はすべて、この家屋を買い戻すために使われていたのだ。桜井もつい先日その事実を知り、野原に資金を渡して買...

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