第1章
廊下の大時計が九時を告げた。スマホを確認するのはこれで五度目――何の連絡もない。蓮は今頃までには帰るとあれほど誓っていたのに、最近の彼の約束なんて、風に舞う木の葉ほどの重みもなかった。
十時十五分。九時だって言ったのに。やっぱりね。
私はコーヒーテーブルから「アートフォーラム」を掴み取った。五十年代の哀れな主婦みたいにドアを見つめ続けるのをやめるには、何か、何でもいいから必要だった。今夜、桜ヶ丘の家はがらんとしていて、念入りに選び抜かれた絵画たちが、部屋から部屋へと歩き回る私を見つめているようだった。
光沢のあるページをめくっていく。私の方が先に見出した新進気鋭のアーティストたちの記事を通り過ぎ、私のギャラリーほど成功していない画廊のレビューを通り過ぎた。そして、私の両手から感覚が消えた。
白鳥沙耶が、白い革のソファの上で、まるでしてやったりとでも言いたげな顔でくつろいでいた。けれど、私の心を凍らせたのは、彼女のその得意げな微笑みではなかった。背後に掛かっていた写真――母の写真だった。
嘘。ありえない。
私は跳ねるように立ち上がった。雑誌を握る手が震えている。そこには、安藤清の『月昇り、故郷』が臆面もなく飾られていた。隅に彼のサインが走り書きされた、ゼラチンシルバープリント。月城恵子が何者でもなくなる前に、何者かであったことの唯一の証明。
言葉が、抑える間もなく口からこぼれ落ちた。「お母さんの『月昇り』が……たった一つの……」
「まるで自分のものみたいに座って。あれは自分のものだって顔で」
十年という歳月が一瞬で溶けて消えた。私は母が住んでいた新北川の狭いアパートに戻っていた。ほとんどの人が宗教的な象徴に向けるような敬虔さで、母がその写真を磨いていたのを見つめている。
「これはただの写真じゃないのよ、美月」母はそう言った。その言葉には、まだ北城訛りの音楽的な響きが残っていた。「私があの世界に存在したっていう証なの。分かる? ほんの一瞬だったとしてもね」
七十年代に安藤清のアシスタントとして過ごした三年。私を身ごもって、アートの世界から二度と属したことなどなかったかのように吐き出されるまでの、三年間。彼女が去るとき、彼はこれをくれた――サイン入りのプリント一枚。あり得たかもしれない人生への、慰めの品だった。
病院で、モルヒネでも痛みを完全には隠しきれなくなったとき、母は驚くほどの強さで私の手を握りしめた。「あれをただのガラクタみたいに扱わせないで、美月。約束して」
「約束する、お母さん。分かってる」
十時半に玄関のドアが開いた。蓮が、高級なネクタイを曲げ、完璧にセットされた髪を完璧に乱した姿で、重い足取りで入ってきた。疲れきっているように見えたが、私にはもうどうでもよかった。
私は雑誌を突きつけた。
「どうしてあの女が母のものを持ってるのか、説明してくれる?」
彼の顔に、呆然、しまった、そして無邪気を装う、という一連の感情が駆け巡った。「美月、一時的なものだよ。インタビューの背景に、何か見栄えのいいものが必要だったんだとさ」
なあ、だって。まるで、最後のピザをどっちが食べたかで喧嘩している二十代の若者みたいに。
「たかが写真撮影のために、母の形見をあの女に貸したっていうの?」
彼は、わざとゆっくりとブリーフケースを置いた。「美月、やめてくれ。ただの写真だろう」
ただの写真。その言葉は、重い沈黙が私たちの間に横たわっていた。
「それに」彼はウイスキーを取りに行きながら付け加えた。「沙耶の記事による宣伝効果? ギャラリーにとっては金になる。彼女のコネだけでも――」
「ギャラリー?」私の声が上ずるのが分かった。「いつからあなたは、母のものを私に断りもなく決めるようになったの?」
彼は凍りついた。ボトルがグラスに注がれる途中で止まる。「君がそんなに――とは思わなかったんだ」
「ええ。それが問題なのよ。あなたは私のことなんて、これっぽっちも考えていなかった」
私は凍った湖のように静かに、自分のデスクへ歩いて行った。一番下の引き出しを滑らせて開けると、弁護士の理恵との最初の打ち合わせの後で隠しておいたフォルダが現れた。蓮は、私が銃でも取り出すかのように私を見ていた。
「先月から計画してたの」私はそのフォルダをコーヒーテーブルの上に、小気味よい音を立てて叩きつけた。
彼の口が、文字通りぽかんと開いた。「先月? 一体何の話をしてるんだ?」
「あなたが沙耶との夕食会を始めて、それがどういうわけかいつも真夜中過ぎまで続くようになったときからよ」脈拍は倍速で打っていたけれど、私の声は落ち着いていた。「あなたが、このギャラリーをゼロから築き上げた私を、まるでサイレントパートナーかのように扱い、勝手に決定を下し始めたときから」
もし彼が、母が遺したたった一つのものを瞬きもせずに手放せるのなら、それは彼が私をどう見ているかということの現れではないだろうか? 背景の飾り? 都合のいい税金対策?
蓮は書類をひったくった。彼の顔色は、二秒とかからずに小麦色から青ざめていった。「これは……おい、離婚届か? たった一枚の、くだらない写真のために?」
「写真のことじゃない」私は彼の目をまっすぐに見つめた。「あなたが七年間、私を家具みたいに扱ってきたことについてよ。綺麗で高価な家具。でも、結局は家具でしかない」
結局、私たちはリビングルームで、まるで人質交渉でもするかのようにコーヒーテーブルを挟んで対峙することになった。考えてみれば、もしかしたら本当にそうだったのかもしれない。
「ギャラリーの五十一パーセントが欲しい」私は水晶のように澄んだ声で言った。「それから、母の写真を返して。今夜中に」
彼は、本当に笑った。「馬鹿げてる。たった一枚の写真、たった一つの雑誌記事だぞ。沙耶の後ろ盾が、俺たちにどれだけの意味を持つか分かってるのか?」
「またそれだ。俺たち」私は首を振った。「蓮、あなたが最後に私を『妻』以外の何かとして紹介したのはいつ? 私がこのギャラリーのオーナーだって、最後に言及したのはいつ?」
彼は革のソファにもたれかかった。そして、それが出た――あの表情が。愚かな女だ、と言いたげな顔。
「いいか、明日になって頭を冷やせば、これがどれだけ馬鹿げたことか分かるさ。一晩眠れば冷静になれるだろう」
冷静?はぁ、軽く言うなよ、このくそ野郎。
「これまでの人生で、これほど確信したことはないわ」
彼は立ち上がり、鎧のようにネクタイを締め直した。「分かった。本田の事務所に九時きっかりだ。弁護士が共有財産というものが実際にどう機能するかを説明すれば、お前も正気に戻るだろう」
「九時ね」私は同意した。「今度は遅れないようにしてちょうだい」
今夜の彼の階段を上る足音は、いつもと違って聞こえた。どこか、最終的な響きがあった。寝室のドアがカチリと閉まるまで待ってから、私は再び雑誌を手に取った。沙耶の顔が、偽りの優しさと本物の野心に満ちて、私を見つめ返してくる。私は写真の中の母の写真を、指でなぞった。
しかし、怒りの代わりに、何か別のものが私を洗い流していった。それは、自由によく似た感覚だった。
蓮の言葉は平手打ちのように痛かったけれど、私はただ彼が階段を上っていくのを見つめ、廊下に消えていく足音を聞いていた。雑誌に目を戻すと、この結婚のために私が諦めたすべてを嘲笑うかのような、沙耶の自己満足に満ちた笑みがそこにあった。私の指は写真の中の母の遺影の輪郭を探し当て、奇妙な軽やかさが胸に満ちてきた。まるで母が、破られた約束を咎めているだけではないかのようだった。まるで、ついに自分のために生きる時が来たと、私に告げているかのようだった。







