第150話グレイス

彼の黒く艶やかな毛並みに指を這わせ、その背中に飛び乗った。できる限り身を低くし、首に腕を回して指をしっかりと組む。ふと見ると、ソーヤーがヘザーを背中に乗せるところだった。彼女の心中を思うと胸が痛む。夫を取り戻すまであと一歩だったのに、私たちは作戦を練り直さなければならなくなったのだ。ヘザーはソーヤーにしがみつきながら涙を流していたが、少なくとも彼女が手を離さずにいてくれたことには安堵した。

私たちは森へと駆け戻ったが、即座に敵の群れに囲まれてしまった。リースの思考が聞こえてきそうだった。『クソッ』と。木々の間を縫うように疾走する中、私は頭を下げ、身を低く保ち続けた。見覚えのないルートだ。ここ...

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