チャプター 2: 恵み
キンズリーが、シンクの前にいる私の方へ大股で歩み寄ってきた。周りの視線が彼女に集まるが、私だけは動かなかった。動かなかったのではない、動けなかったのだ。私は必死に恐怖を押し殺し、虚勢を張った。二十歳になっても、気分はまるで子供のままだった。どうして彼女は一日たりとも、私を放っておいてくれないのだろう?
鞭が空を切り、私のシャツを軽々と引き裂く痛みが走った。私は身じろぎもしない。キンズリーに私が挫ける姿など見せてやるものか。彼女は一生消えないほどの傷を私に負わせたが、弱みだけは見せたくなかった。
再び鞭が唸りを上げると、私はカウンターに身を預けて耐えた。これは彼女のお気に入りの拷問だ。私の背中は古傷と新しいミミズ腫れで覆われ、無傷な場所など一寸たりとも残っていない。彼女がこれほど鞭を好むのは、持ち歩きやすく、私を見かけたらいつでも取り出せるからだろう。さっと一、二回打つだけの時もあれば、楽しみのために長引かせる時もある。だが、今回は最悪だった。キンズリーが怒っているからだ。怒れるキンズリーほど始末に負えないものはない。
「一体何をしてるつもりなの!?」キンズリーが怒鳴った。「二階の掃除をしてなきゃいけない時間でしょ、なんでこんな薄汚いキッチンにいるのよ! 頭おかしいんじゃないの!?」
彼女が鞭を打ち続ける間、私は無言のまま膝から崩れ落ちた。
「大・事・な・お・客・様・が、来るのよ。あんたは、目・障・り・な・の。消えなさいよ! 生きてる価値もないクズが! それに、リンゴに血が付いたじゃない!」
キンズリーは毒液を吐き出すかのように言葉をまくし立て、息を切らしていた。私は彼女を憎んだ。彼女によって変えられてしまった自分を憎んだ。彼女のせいで生きなければならない、この日陰の人生を憎んだ。だが、私はその憎しみを支えにして、音も立てずに耐え続けた。
意識を保つのがやっとで、息もできない。鞭は止まったが、髪を鷲掴みにされ、無理やり顔を上げさせられた。
「さっさと二階へ行って掃除しなさい。もし客が帰る前にあんたの姿を見かけたら、地下牢行きよ。衛兵たちにあんたを好きにさせてやるからね」彼女は私の耳元で、私だけに聞こえる声量でそう言い放った。
痛みが激しさを増し、目に涙が溢れる。頷こうとしたが、髪を強く掴まれていて身動きが取れない。
「いい子にできる?」キンズリーが冷笑する。
私は再び頷いた。口答えをしても、事態が悪化するだけだ。
「視界から消えなさい」
キンズリーが手を離すと、私は前のめりに倒れてカウンターの角に顔をぶつけそうになった。深呼吸をして、必死に体勢を立て直す。大丈夫。私は大丈夫。大丈夫だ。頭の中で呪文のように繰り返しながら、よろめきつつ立ち上がった。空腹と痛みが重なり、目が回りそうだ。
「床中、血だらけじゃない」キンズリーが忌々しそうに言った。
私は頷き、部屋の隅からモップを掴んだ。彼女に再び攻撃する口実を与えないよう、遅すぎず、かつ慎重に動いた……もっとも、彼女に口実など必要ないのだが。
キッチンを拭き掃除した後、制服や掃除用具が入っている物置へ向かった。今着ている服の上に、新しいシャツとドレスを重ね着する。昔学んだ知恵だ。こうすれば、シャツが包帯代わりになる。以前は服を汚すと怒られると思っていたが、彼女はどうやら私が服を何枚着ていようと、血が滲み出てくるのを見るのが好きらしい。まるで何かの挑戦みたいに。
準備を整えると、必要な掃除用具を持って二階へ向かった。階段の上り下りは想像以上にきつく、上りきる頃には息が切れ、こらえきれない涙が溢れ出していた。
私は右手の最初の部屋に逃げ込んだ。滅多に使われない談話室だが、来客時には開放されることもある場所だ。とりあえずここから始めようと思ったのだ。重厚なマホガニーのドアを背中で閉めると、すぐに体を小さく丸めたい衝動に駆られた。激痛が走り、目が回る。ほんの一瞬でいい、この痛みを感じて、思い切り泣いてしまいたかった。
しゃがみこんで一息ついたのも束の間、部屋の反対側で人の気配がした。途端にパニックに襲われる。誰もいないと思っていたのに、先客がいたのだ。
グラスを置く音が聞こえたが、私は動けなかった。恐怖がさらに膨れ上がる。
「おい、立ちなさい」聞き覚えのない声が部屋の向こうから響いた。「そして、名乗るんだ」
目を見開いて顔を上げると、彼と目が合った。チョコレートブラウンの髪、浅黒い肌、そして鋭い緑色の瞳。若い。二十代前半から半ばくらいだろうか。私は乱れた呼吸を整えようと必死だった。これまで見た中で最も美しい男性だった。その髪に指を絡ませたい、そんな場違いな思考が頭をよぎる。私は力を振り絞って立ち上がり、涙を拭った。この人は私を知らない。私の苦労を見せる必要はない。もし彼と関わったことがバレたら、大変なことになる。きっと私が近づいてはいけないと言われていた客人の一人なのだろう。
背後のドアが開いた。アルファ・エイドリアンが笑顔で入ってきて、目の前の男を見た。しかし、私に気づいた瞬間、その表情は凍りつき、衝撃と嫌悪の色が浮かんだ。
「アルファ・キング・リース」エイドリアンは嫌悪感を隠そうと努めながら言った。「申し訳ございません。この愚かな使用人が、ここで会合があることを知らなかったようで」
私はおどおどと頷いた。アルファ・キング。王だ。こんなところに入り込んでしまった私に、良いことなど何一つあるはずがない。
エイドリアンが私の肩を乱暴に掴み、追い出そうとする。「この女はすぐに下がらせますので」
「自分の口で話せるだろう」アルファ・キングの放つオーラに、私とエイドリアンは凍りついた。「娘よ、名はなんと言う?」
