第4章

井上結衣視点

「よく考えてみてくれ」彼は一歩近づきながら続けた。「俺たちの家族はこの合併を何ヶ月も計画してきたんだ。君の父さんの会社とうちの会社は、もう繋がってる。別れるなんて、誰のためにもならない」

「慎二の言う通りよ」慎二のお母さんが、ほとんどパニックになったような声で割り込んできた。「新しい結婚式をすればいいのよ! 今度よりもっと盛大に! 結衣が望むように、何でもするわ。完璧な式にするから」

「理性的におなりなさい、結衣」慎二のお父さんが付け加えた。「こういうことはよくあることだ。慎二は過ちを犯したが、君たちはいい組み合わせだ。たった一日の失敗で、二年間を無駄にするんじゃない」

私の両親は黙ってそこに立っていたが、私を見つめ、私がどう出るか待っているのが感じられた。

私は慎二を見た。本当に、ちゃんと、彼のことを。二年間、愛してきたこの男。この男のために仕事を辞め、新しい街に引っ越し、私の未来のすべてを懸けて計画してきた。百人の招待客の前で、私を祭壇に置き去りにして、空港にいる元カノのもとへ走っていったこの男。

その彼が今、私の家の玄関口に立って、「理性的になれ」と言っている。

私の中で、何かがぷつりと切れた。

「ちょっと確認させてくれるかしら」私の声は、自分でも驚くほど冷静だった。「つまり、あなたは私がここで待ってろって言うのね。あなたがずっと愛していたらしい女性との『関係をはっきりさせる』間。そして、彼女とのことが終わったら、私はビジネスに都合がいいからって理由で、あなたと結婚すればいい、と」

「そういうことじゃな――」慎二が言いかけた。

「あなたは私を祭壇に置き去りにしたのよ、慎二」私は彼の言葉を遮った。「私たちの結婚式から逃げ出した。私たちの知り合い全員の前で。あの女と一緒になるために。それなのに今、ここに立って私に理性的になれって言うの?」

「結衣、感情的になっているぞ」

「感情的になって当然でしょ!」声が大きくなる。でも、もうどうでもよかった。「あなたは私に恥をかかせた! 私の家族、友達、みんなの前で、私を馬鹿みたいにしたのよ!」

「それについては謝る。だが――」

「『だが』じゃないわ」もう、終わりだった。「慎二、私たちは終わり。おしまい。やり直しも、二度目の結婚式も、来年の春もない。私たちは、終わりよ」

彼の顔が真っ青になった。「結衣、待ってくれ!」

「お金のことは、私の弁護士から連絡させるわ」私は冷静さを保とうとしながら、言葉を続けた。「結婚式の費用はほとんどあなたが出してくれたから、その分は返す。でも、慰謝料も請求させてもらうわ」

「慰謝料?」慎二は心底戸惑ったような顔をした。

「私はあなたと一緒にここに引っ越すために仕事を辞めた。B市のマンションも、これまでのキャリアも、何もかも捨てたのよ。私たちが一緒に住むはずだったこの場所にもお金を入れた。この関係に、私の人生の二年を費やした」私は彼をまっすぐに見つめた。「それを返してほしいの」

「俺に金を払えって言うのか?」慎二の声が冷たくなった。「結局、そういうことか? 金が目的なのか?」

「他に何があるっていうの? 愛?」笑いそうになった。「あなたは昨日、私を愛していないって証明したじゃない。最初から愛してなんていなかったのよ。だから、そうよ、お金の話をしましょう。少なくとも、それだけは現実的だわ」

「結衣、ねえ、みんなで少し時間をおいて、もっと冷静に話し合わない?」慎二のお母さんがなだめようとした。

「私は冷静ですよ」私は彼女に微笑みかけた。氷のような笑みだった。「あなたの息子さんは、私たちの結婚式から元カノのもとへ逃げました。ネットには二人が抱き合っている写真が出回っています。街中の人が何があったか知っています。ですから、いいえ、山崎おばさん。私は慎二とは結婚しません。来年の春も、未来永劫、絶対に」

「だが、事業提携の件は――」慎二のお父さんが口を開いた。

「私の知ったことではありません」私は両親の方を向いた。「お母さん、お父さん、後で電話する。今は、みんな帰ってほしいの」

母は涙を流していたが、頷いてくれた。父がその肩を抱いた。

慎二はただそこに立って、私をじっと見つめていた。「結衣。頼む。二人きりで話せないか?」

「今、話したでしょ。もう話すことはないわ」私はドアを閉め始めた。「弁護士から連絡させます」

「待っ――」

彼の目の前でドアを閉めた。

ドアノブに手を置いたまま、廊下からくぐもった声が聞こえてくるのを聴いていた。やがてその声は小さく、遠くなり、ついには静寂だけが残った。

足の力が抜けそうだった。ドアに背をもたせかけ、目を閉じる。どうやって呼吸するんだったか、思い出そうとするように。

小さな手が、私の手に滑り込んできた。

目を開けると、美佳が隣に立って、大きな茶色い瞳で私を見上げていた。

「おばさん」彼女は静かに言った。「正しいことをしたよ」

「そうかな?」声が震えた。「だって、すごく辛いんだもの」

「それは、おばさんが彼のことを愛してたからだよ」美佳は私の手を強く握りしめた。「でも、これで自由になれたんだ」

私は彼女を見下ろした。どこからともなく現れて、私の人生をめちゃくちゃにした、この不思議な小さな女の子。

私はドアに背をつけたまま、ずるずると床に座り込み、彼女を抱きしめた。

「ありがとう」と、私はささやいた。

「何が?」

「私には、あんな男よりもっといい人がいるって、思い出させてくれて」

美佳は私を抱きしめ返した。彼女の細い腕が、私の首にぎゅっと巻きついた。「うん。おばさんには、もっともっといい人がいるよ」

私たちは一緒に、そこに座っていた。

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