第8章

井上結衣視点

T市児童相談所の建物の正面階段を、心臓の音が耳元で鳴り響く中、つまずきそうになりながら駆け上がった。

中では、書類の山に埋もれた机の向こうに、疲れきった様子の女性が座っていた。

「美佳という女の子を探しています」言葉が早口で滑り出た。「最近ここに連れてこられたはずです。五歳で、茶色い髪、茶色い目をしています」

「ご家族の方ですか?」

「いえ、でも私は――」

「では、いかなる情報もお伝えできません」女性はパソコンから顔さえ上げなかった。

「お願いします」机に身を乗り出した。「あの子が無事かどうか知りたいだけなんです。私が面倒を見ていました。一緒に暮らしていたんで...

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