第8章

夜も更け、ベッドに横になっても、眠気は一向に訪れなかった。

林原奥様の言葉が、ずっと頭の中でこだましている

『彼を本来の彼に戻せるのは、あなただけかもしれないわ』

その期待は重く、けれど同時に私の心の琴線を微かに揺さぶった。

天井を見つめながら、林原智哉と過ごした日々の断片を思い返す。

最初に彼に近づいたのは、ただ自分の身を守るためだった。

この小説の世界で、私は大悪役である林原智哉の身代わりの花嫁。原作の筋書き通りなら、いずれ裏切りによって彼に殺される運命だった。

その運命を変えるべく、彼と平和的に離婚できるよう働きかけなければならなかった。

けれど今、自分...

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