第3章
包み紙は、折りたたむたびにくしゃりと音を立てた。
蒼一郎が運転していた。どこへ向かうのか、私は訊かなかった。街は窓の外を橙色の光の帯になって流れていき、私たちはどちらも何も言わなかった。
あれで私が変えられてから半年。午前二時を回ったころ、蓮は帰宅して私を起こした。
何か用があったわけじゃない。暗闇の中、ベッドの自分の側に腰を下ろし、祖母の千代から今夜電話があったのだと言った。私が「馴染めているか」訊かれたらしい。どうやら、心配しているのだと。
「可哀想だと思ってるんだろ」蓮は手を伸ばしてスタンドの灯りを消した。
「それは、気にかけてるのとは違う」
そう言って、眠ってしまった。
私は暗闇の中で長いあいだ横になっていた。あの一家の中で、私のことを訊こうと思ったのはその人だけだったのに、蓮はそれがどれほどの価値しかないのかを、きっちり理解させたかったのだ。温かさじゃない。関心でもない。憐れみ――それはまったく別の分類で、彼はその違いを私に知らしめたかった。
私は包み紙をもう一度折り、窓の外を見た。
蒼一郎は何も言わない。車に乗ってからずっと、前だけを見ていた。
初めて私が蓮に「もう、こんなの続けられない」と告げたとき、彼は一瞬だけ私を見た。次に立ち上がり、部屋を出ていき、背中で扉を閉めた。
言い争いもない。否定もない。反応という最低限の礼儀すらなかった。
私はベッドの端に座り、戻ってきて会話を終わらせるのを待った。戻らない。一時間が過ぎ、二時間が過ぎ、ようやく理解した――彼は戻る気がないのだと。
言い返してくる男なら、こちらも言い返せる。彼はどこかでそれを学んだのだろう。去るのが上手い。去ったように見せないまま、消えるのが。
私は手首の裏を目に押し当てた。
蒼一郎をちらりと見た。顎は固く、視線は道路に据えられ、何も気づいていないふりをしている。気づいている。首の角度でわかった。意図的に私を見ない、そのやり方で。塔の上でもそうだった――注意を引かずに距離を取る。
私はまた窓へ視線を戻した。
見知らぬ建物の前で車が止まった。中へ入ると、すでにロビーに医者がいた。立ったまま、何かを読むでもなく、明らかに私たちを待っている。
私は医者を頼んでいない。手のこと以外、何も口にしていない。
それなのに彼は、塔からここまでの間に手配していた。
以前の私なら、これを支配だと読んだだろう。こちらが言葉にする前に必要なものを決め、決めたものを「受け取らされる」形にする――そういう輪郭。五年で私は、その形を見分けるよう訓練されていた。
でも今回は、そうは読めなかった。どう扱えばいいのか、わからなかった。
診察はあっという間だった。脳震盪なし。手のひらは一週間で治る。他に特記なし。医者は休養がどうのと言い、十五分もしないうちにいなくなった。
蒼一郎が、どこかで待っていた場所から戻ってきた。
「空いてる部屋がある」そう言った。『怪我は?』と同じ声。『そこ押さえて』と同じ声。ただの情報を、一度だけ差し出すように。
私は「大丈夫、私は――」と言いかけた。
やめた。
「……うん」私は言った。
彼は頷き、手配しに行った。私はロビーに立ったまま、頭の中でその名を転がした。
氷室。
この界隈で育っていれば、聞かされなくても知っている名だ。古い。名乗る必要がない種類の古さ。そこにあるだけで、周囲の空気のほうが先に整ってしまうような。古い制度の名前を知っているのと同じ――誰かが説明したからではなく、周囲の形そのものが、それを当然としているから。
そして、もう一つ。四年前、私は婚約から逃げるために見つけられる限りの伝手を使った――弁護士、知り合い、父が紹介してくれそうな誰か。実際に返事をくれたのは、たった一人だった。氷室家の誰かからの手紙。契約を条文ごとに精査し、争える点と争えない点、そして本当の交渉材料がどこにあるかを書いてあった。私はそれを読んでいる途中で――
外に車が止まった。
蓮が降りてくる。靴が舗道に触れるころには、表情はすでに整えられていた。心配の置き方も正しい。息を吐くタイミングも。
「結衣」肩に手を伸ばしてくる。
「よかった……本当に。戻れる瞬間に戻ってきた。手配がいろいろあって、もう――」
「どこにいたの?」
彼の手が止まった。
「地上に上がったとき」私は声の調子を崩さなかった。
「どこにいたの」
質問じゃない。
「結衣、奈美のことを確かめないと――」
「私は大丈夫」私は言った。
「行って」
彼は動かない。
「話し合うべきことが――」
「行っていいって言ったでしょ、蓮」
