第2章
「星河演芸学院は芸能界の最高学府だ。三好家の顔に泥を塗るような真似はするなよ……」
自転車で学院の門をくぐり抜けた瞬間、父が見せた見せかけの気遣いが、私に人前で恥をかかせるためのものだったと悟った。
目の前に広がるのは、金ピカのヨーロッパ風建築群。駐車場には高級車がずらりと並んでいる。
フェラーリ、ランボルギーニ、ロールスロイス……そんな中、私は一台のオンボロ自転車を漕いでいた。
「うそ、あの子、自転車で来たの?」
「ここ、星河演芸学院よ?職業訓練校じゃないんだから!」
「あの服見てよ、露店で買った安物じゃない?」
囁き声が針のように突き刺さるが、私は顔色一つ変えずに自転車に鍵をかけた。孤児院で過ごした十八年間の冷たい視線に比べれば、こんなもの、物の数ではない。
教室に入ると、担任がちょうど点呼をしているところだった。
「三好夜さん、到着したようだな。皆、歓迎してやってくれ。彼女は最近、三好家に戻ってきたばかりの三好夜さんだ。皆、仲良くしてあげてくれ」
拍手はまばらで、注がれる視線は品定めと軽蔑の色に満ちていた。
「孤児院に十何年もいたって聞いたけど、芸術的な才能なんてあるわけないでしょ?」
女子生徒Aがわざとらしく声を潜めるが、私にははっきりと聞こえた。
「三好雪晴先輩はあんなに優秀なのに、どうしてこんなお姉さんがいるのかしら。遺伝子の差が大きすぎない?」
女子生徒Bがそう言い、その目には侮蔑が浮かんでいる。
私は教室の隅に腰を下ろし、四方八方から寄せられる悪意を感じていた。
やはり、まともな人間は一人もいない。
「すみません、お昼を食べるレストランはどこですか?」
隣の男子生徒に尋ねてみた。
彼は私を上から下まで値踏みするように見ると、せせら笑った。
「レストラン?近くのドカタ飯の場所を聞きたいんじゃなくて?ここのランチは最低でも四万円はするけど、払えるのか?」
私は冷笑を浮かべた。
「ご忠告どうも」
休み時間、掲示板の前に突然人だかりができた。
人混みをかき分けて覗き込むと、心臓が激しく脈打つのを感じた——
『著名監督による新作ドラマ、ヒロインオーディション開催のお知らせ』
「うそ!野村監督の新作じゃない!」
「今年最大のチャンスよ!」
「三好雪晴先輩なら絶対取れるわ!」
その時、見知った姿が現れた。限定版のシャネルを身にまとい、ハイヒールを履いて優雅に歩いてくる三好雪晴。その後ろには数人の取り巻きが続いている。
「雪晴、この役、まるであなたのためにあるみたい!」
大村夢生子が媚びへつらうように言った。
「そうよ、この学院で一番実力があるのはあなたなんだから!」
別の女子生徒が同調する。
三好雪晴は淡く微笑んだ。
「まあ、公平に競争しないとね」
そう言うと、彼女は私に視線を向けた。
「お姉さんも参加するのかしら?スタートは遅いけど、もしかしたら才能があるかもしれないし。皆、彼女のことを見くびっちゃだめよ」
言葉は綺麗だが、彼女の内心の侮蔑はひしひしと伝わってくる。
「三好夜も参加するの?彼女、基礎すら学んでないでしょ?」
誰かが疑問を口にした。
「そうよ、こういうオーディションは遊びじゃないんだから」
私は申込用紙へと歩み寄り、迷うことなく自分の名前を書き込んだ。
「何か問題でも?」
群衆は一瞬で静まり返り、三好雪晴の瞳に一瞬の動揺がよぎった。
私は彼女の心の声をはっきりと『聞いた』。彼女は怖がっている……私が本当に才能を持っていることを。
面白い。
午後、監督自らが学院で説明会を開いた。講堂は満席で、スポットライトの下、野村監督が威厳のある眼差しで壇下を見渡した。
「私が欲しいのはお人形じゃない。人の心を本当に揺さぶることができる役者だ。才能とは何か?命を懸けて演じることだ!」
三好雪晴が立ち上がった。
「監督、私は幼い頃から専門的な訓練を受けてきました。決してご期待を裏切りません」
野村監督は頷いた。
「訓練は重要だ。だが、それ以上に魂が重要なんだ」
散会後、監督に媚びへつらう三好雪晴の姿が目に入った。権力というものの匂いは、実に胸糞が悪い。
オーディション当日。楽屋は活気に満ち、誰もが入念に準備を整えていた。私は化粧台へ向かい、スタッフが用意したファンデーションを手に取った。
顔に塗った途端、ピリッとした痛みが走る。
「きゃっ、三好夜、どうしたの?顔がそんなに腫れちゃって!」
大村夢生子が突然現れ、大げさに驚いた表情を見せた。
顔に触れると、火傷のような痛みが走る。鏡を見ると——顔全体が豚の頭のように赤く腫れ上がっていた!
「さっきこの化粧品を使ったら、こうなって……」
「肌が敏感なのかもね。今日のオーディションは諦めたら?」
大村夢生子が「親切心」から提案してくる。
「そうよ、そんな顔で舞台に上がったら恥ずかしいだけだし、帰って休んだ方がいいわよ」
他の生徒たちが人の不幸を喜ぶように言った。
流言が耳をかすめる中、私の感情感知能力が再び起動する。
大村夢生子の内心はガラスのように透けて見えた——そこには、悪意に満ちた得意げな感情が溢れている!
「あなたね……私のファンデーションに薬を入れたのは!」
私は彼女の目を真っ直ぐに見据えた。
大村夢生子の顔が青ざめる。
「何言ってるの?私があなたを陥れる理由なんてないじゃない!」
「三好雪晴が私に負けるのを恐れているからよ」
「おかしくなっちゃったのよ、この人!」
大村夢生子が後ずさる。
怒りが火山のように噴火し、あの奇妙な力が再び目覚めた。
私は大村夢生子を凝視し、孤児院で過ごした十八年間に受けた全ての屈辱、恐怖、絶望を、洪水のように彼女の脳内へ注ぎ込んだ!
人々に囲まれ嘲笑される恥辱!
仲間に裏切られ見捨てられる絶望!
無力なまま踏みにじられる恐怖!
「人に傷つけられるのが、どんな気分か知りたい?」
私の声は氷のように冷たかった。
「な……何をする気?こっちに来ないで!」
大村夢生子が震え始めた。
瞬間、彼女の眼差しが変わった。
恐怖、苦痛、絶望が次々と現れ、彼女は頭を抱えて床にひざまずき、声を張り上げて泣き叫んだ。
「やめて……怖い……私が間違ってました……私が彼女の化粧品にアレルギー薬を……」
「どうしたの?なんで急に?」
生徒たちが恐怖に顔を引きつらせて後ずさる。
大村夢生子は完全に精神が崩壊し、何度も繰り返した。
「ごめんなさい……ごめんなさい……もう二度としません……助けて……」
「これで、人に傷つけられる味がわかった?」
救急車が到着し、大村夢生子は精神錯乱状態で謝罪を続けながら担架で運ばれていった。
私は赤く腫れた顔のまま、舞台に上がった。本物の苦痛をもって役の悲しみを演じると、涙が制御できずに流れ落ちた。
「カット!」
野村監督が突然叫んだ。
「この感覚だ!真実はいかなる技術にも勝る!」
オーディションが終わると、生徒たちの私を見る目は完全に変わっていた——軽蔑から、恐怖へと。
「大村夢生子、どうしてあんなことに?」
「不気味すぎる……」
私は荷物をまとめ、その場を去った。胸の内に、今までにないほどの爽快感が込み上げてくる。
感情共感——これが、私の能力?
いいだろう。少なくとも、力だけがものを言うこの世界で、私はようやく自分の武器を手に入れたのだ。
