第3章
役を手に入れて二日目の未明、私はスマートフォンの振動で目を覚ました。
画面に表示された99件以上の通知に、一瞬で意識が覚醒する。タップして開いた瞬間、心臓が止まりそうになった。
『衝撃！ 三好家の真の令嬢、同級生をいじめ精神異常に追い込む！』
トレンド一位、リツイートは十万件を突破し、コメント欄は血の海と化していた。
私は震える手で動画を開く。画面の中の私は大村夢生子を「脅迫」しており、彼女は地面に膝をついて苦しそうに泣き叫んでいた。
肝心な薬を盛る場面は完全にカットされ、私が彼女を「いじめている」映像だけが残されている。
『これが噂の三好家の本物の令嬢？ 怖すぎでしょ！』
『孤児院出身はやっぱり性格が歪んでる。目つきからして善人じゃない！』
『監督は目でも腐ってんのか？ こんな奴をヒロインにするとか』
これらの動画は、明らかに誰かの悪意によって編集されたものだ……。
突然、寮のドアが押し開けられ、同室の女子たちが駆け込んできた。その瞳には非難の色が宿っている。
「三好夜、説明してもらおうか。今ネット中がお前のことで大騒ぎになってる！」
寮長が厳しい声で言った。
「そうよ、あんたのせいでとばっちりなんてごめんだから！」
「一体何したのよ？ 大村夢生子は今も病院にいるって話じゃない！」
私は冷笑した。
「あなたたちまで、こんなものを信じるの？」
誰も私の説明に耳を貸そうとはせず、まるで疫病神のように私を避けた。
スマートフォンの振動は一瞬たりとも止まらず、様々なゴシップメディアが私の黒い噂を掘り起こし始めた。
孤児院での過去は根こそぎ暴かれ、幼い頃に仲間とおもちゃを取り合ったことさえ「幼少期から暴力的傾向があった」と捏造された。
私の個人情報は特定され、写真は悪意を持って加工され、果ては孤児院を攻撃し始める者まで現れた。
ネット工作員たちの集中攻撃は組織的で統制が取れており、どのコメントもまるでコピー＆ペーストしたかのように整然としていた。
決して偶然ではない！
午後、私は助けを求めようと、三好家の会社へと駆け込んだ。
会議室のガラス扉越しに、役員たちがテーブルを囲んで議論しているのが見えた。
「現状、最善策は三好夜を引退させることです。体調不良を理由に、芸能活動を休止するという声明を出すのがいいでしょう」
広報部長がスクリーンに映し出された世論分析を指差しながら言った。
父である三好正輝が眉をひそめる。
「それはあまりに薄情ではないか？ 彼女も私の娘だというのに」
「今は感傷に浸っている場合ではありません。雪晴のキャリアに傷をつけるわけにはいかないのです」
幸子が冷たく硬い声で言った。
私はドアを押し開けて中に飛び込んだ。
「あなたたちの心の中では、私はいつでも切り捨てられる駒でしかなかったのね？」
会議室は一瞬にして静まり返った。
「三好夜、理解してくれ。これは大局を考えてのことなんだ」
父が立ち上がり、私をなだめようとする。
「大局と、あなたの実の娘と、どちらが大事だっていうの？」
私の声は震えていた。
誰も答えない。彼らの沈黙こそが、最良の答えだった。
私は背を向け会社を飛び出す。心は死んだように冷え切っていた。
血の繋がり？ 利益の前では、その程度のものでしかない。
深夜、私はマスクと帽子で顔を隠し、一人ネットカフェにいた。指がキーボードの上を素早く駆け巡る。
ハッキング技術は孤児院で独学したスキルだ。今こそ、それが役立つ時だった。
自分の手で、真実を見つけ出してやる！
数時間の追跡の末、最初に動画を投稿したIPアドレスを特定した。驚くべきことに、そのアドレスは三好雪晴が頻繁に使うネットワークノードと完全に一致していた！
私は広報会社のサーバーに侵入する。揺るぎない証拠が、目の前に現れた。
1000万の送金記録、ネット工作員のアカウントリスト、動画の編集手順……。
そして何より決定的だったのは、一本の録音データだった。
『どんな手を使っても構わないわ。あの子を完全に芸能界から追放して。二度と這い上がれないようにするのよ！』
『三好さん、ご安心を。我々はプロですから。必ずや彼女を再起不能にしてみせます』
三好雪晴の、あの悪意に満ちた声は、聞き飽きるほど耳に馴染んでいる……。
「私の可愛い妹……本当にえげつないことをしてくれるじゃない……」
寮に戻ると、私はスマートフォンをセットしてライブ配信を開始した。
配信タイトルは、『三好夜、ネットいじめ事件に応答。真相解明！』
視聴者数は爆発的に伸び、一分もしないうちに五万人を突破した。コメントが滝のように画面を流れていく。
『また白々しい言い訳かよ、誰が信じるか！』
『いじめっ子は芸能界から消えろ！』
『孤児院出身はやっぱ精神が異常！』
私はカメラに向かい、異常なほど平静な声で言った。
「視聴者の皆さん、今からあなたたちに、何が真実かをお教えします」
私は証拠を一つずつ提示していく。送金記録、チャットのスクリーンショット、編集されていない完全な動画。そして最後に、三好雪晴のあの録音データを流した。
コメント欄に疑問の声が上がり始めたが、依然として悪意あるコメントが多数を占めていた。
私は深く息を吸う。
「ネットで叩かれるのがどんな気持ちか、知りたいですか？ 今、あなたたちに身をもって体験させてあげます」
私は感情感知の能力を解き放った！
この三日間で耐え忍んだ全ての苦痛——侮辱された絶望、家族に見捨てられた心の痛み、悪意に傷つけられた怒りを、洪水のように、今まさに私を攻撃している一人一人の視聴者へと注ぎ込んだ！
『助けて……怖すぎる……俺が悪かった……謝るから……』
『なんで急にこんなに苦しいんだ……彼女を罵るんじゃなかった……』
『ごめんなさい！ 私たちは騙されてた！』
ライブ配信の反響は一瞬で逆転し、それまでの悪意に満ちたコメントは、謝罪と自責の言葉に変わった。
ネットいじめに参加していた者たちは次々と配信画面で崩れ落ち、中には恐怖のあまり警察に通報する者までいた。
「これがあなたたちが私に押し付けた苦痛。今、そっくりそのままお返しします」
私の声は氷のように冷たかった。
コメントの流れは完全に変わった。
『夜お姉さん、私が間違ってました！』
『ごめんなさい！』
『私たちはみんな三好雪晴に騙されてた！』
私は配信を切り、スマートフォンに絶えず流れ込んでくる謝罪のメッセージを見つめ、複雑な心境に陥った。
世論は完全に反転した。ネットいじめに参加したユーザーは自ら悪質なコメントを削除して謝罪し、ネット工作員の会社は「従業員の集団精神異常」を理由に業務停止に追い込まれた。
三好雪晴のパブリックイメージは完全に崩壊した。だが、私が彼女をこれで終わりにしてやるつもりは、毛頭なかった！
