第156章

周防奏夢はほんの少し顎を上げ、自分がいちばん美しく見える角度の横顔を作ってみせた。古川和津が一度でもこちらを見てくれれば――そんな期待を、胸いっぱいに詰め込んで。

けれど古川和津は、余光ひとつくれない。

隣で誰かが喋っていることなど、最初から存在しないかのように。深い視線は終始、南だけを捉えていた。彼は手を上げ、南の耳元に落ちた後れ毛をそっと整える。低く、やわらかな声で言った。

「入れ。お前が中に入るのを見届けてから帰る」

「……うん」

南は冷えた表情のまま小さく応じ、背を向けて玄関へ向かった。

扉の向こうにその後ろ姿が消えるまで見送り、古川和津はようやく目元の温度を引っ込める。...

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