第174章

周防奏夢に腕を絡められたまま家の中へ入る。けれど周防律の深い眼差しは、ホールの隅から隅まで一度すくうように走った。

――見当たらない。想像していたあの姿が。

律はわずかに眉を寄せ、何気ない調子で訊ねる。

「南は? いないのか?」

「南」という二文字が落ちた瞬間、奏夢が律の腕を抱く指が、ほんのわずか強張った。爪が掌に食い込みそうになる。瞳の奥を、濃い嫉妬が一閃――だが、次の刹那には完璧に隠された。

彼女はすぐに少し居心地悪そうな顔を作り、控えめな声で答える。

「お姉ちゃんは……最近、仕事がすごく忙しくて。たぶん、今日は夕飯、戻らないみたい」

「仕事?」

律は足を止め、奏夢を振り...

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