第93章

彼は手を離し、デスクを回り込んで彼女のそばへと歩み寄った。その長身から落ちる影が、彼女の全身をすっぽりと包み込む。

「俺が怪我の治療中だってこと、分かってるよな?」彼は低く笑い声を漏らした。その響きには、どこか自嘲と恨みがましさが混じっている。「誰かさんは電話を切るなり仕事に没頭して、気遣う言葉の一つもない。俺から来なかったら、日が暮れても俺の存在なんて思い出しもしなかったんじゃないか」

南は言葉に詰まった。確かに仕事に入り込むと周りが見えなくなるが、だからといって彼を気にかけていないわけではない。

「私はただ……」釈明しようとした彼女の言葉は、古川和津の唐突な動きによって遮られた。

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