第54章 誘拐

「なんだって?」水原空は彼女を見つめた。

柳田美咲は答えずに、「今夜はゲストルームで寝てよ」と一言残すと、自分の部屋に戻り、内側から鍵をかけた。

水原空は丸一分間その場に立ちすくんでから、ようやく動き出した。

今夜、水原空はゲストルームで寝ることになった。結婚して五年、柳田美咲が初めて自分に離婚を切り出したのだ。心に何の感情も湧かないはずがない。

実際、彼はこの日が来ることを予想していた。ただ、こんなに早く、しかもこのような形で訪れるとは思っていなかった。

今夜、水原空は眠れなかった。真夜中になってようやく少しずつ眠りについた。

その後の二日間、水原空と柳田美咲は一言も交わさなか...

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