第2章

西園寺古里視点

二週間後。朝の日差しが狭苦しい寮の部屋に差し込む中、私は中古のベッドの端に腰掛け、とっくに冷めきったコーヒーのカップを手にしていた。

ここは安川大学が提供する一番安い学生寮で、壁は薄く、防音も最悪だ。隣の部屋の住人が早朝の授業の準備をする物音が聞こえてきて、新しい一日が始まったことを私に告げていた。

スマホを取り出し、習慣的に早川真井のSNSアカウントを開く。彼女は今もなお、自身の「SAT満点」を祝うコメントに浸っており、見るからに嬉しそうに返信していた。

そして私、そのスコアの本当の持ち主である私は?この片隅に隠れ、功績を盗まれた痛みに静かに耐えるしかなかった。

コン、コン、コン!

性急なノックの音が私の思考を遮った。ドアを開けると、そこに立っていたのは高価なシャネルの服に身を包み、最新のエルメスのバッグを提げた早川真井だった。彼女は私の部屋を見渡し、顔に嫌悪感をありありと浮かべた。

「うそ、古里。あんた、本気でこんなところに住んでるの?」

彼女は鼻を覆った。

「カビ臭いんだけど」

彼女の棘のある言葉には答えなかった。見下されるのには慣れていた。

「何の用?」

「重大ニュースがあるの!」

彼女は部屋に入ってくると、床に散らかった本を、ブランド物のヒールが汚れるのを恐れるかのように慎重に避けながら言った。

「今日、緒丘大学の王子様が会いに来てくれるの!」

心臓が跳ねた。

「緒丘大学の王子様……?」

「黒木直樹よ、決まってるでしょ!」

早川真井はスマホのインカメラで自分をチェックし、化粧を直しながら言った。

「石油王の孫で、資産は何百億円。それに、すっごく優しくて、女の子に声を荒らげたりしないの」

黒木直樹。その名前に、血の気が引く思いがした。

「どうして彼を知ってるの?」

声を震わせないようにするのが精一杯だった。

早川真井は得意げに微笑んだ。

「ネットで知り合ったの。もちろん、緒丘大学と安川大学のエリートが集まる社交界隈でね」

彼女はそこで一呼吸置き、わざと見下すような口調で付け加えた。

「あんたには縁のない世界よ。だって、誰もが建物を寄付して入学できるわけじゃないもの」

彼女の言葉は、平手打ちのように心に突き刺さった。早川真井が安川大学に入れたのは学力ではなく、早川家の多額の寄付のおかげだということは知っていた。

彼女の実際のSATのスコアは1200点しかなかったし、私のスコアを盗んでTikTokに投稿したことを両親が知っても、何も言わなかった。ただ一億円を寄付して、彼女の道を切り開いただけだ。

一方、正当な合格通知を勝ち取った私の満点は、その栄光を彼女に奪われた。

「それで、今日彼に会うの?」

「当たり前でしょ!」

早川真井は口紅を塗り直した。

「心配しないで、こんなゴミ溜めみたいな場所に長居するつもりはないから。あんたが住んでるところを見てると、こっちが恥ずかしくなるわ」

彼女は帰ろうと背を向けたが、ふと振り返った。「あ、それと、もし誰かに私のSATのスコアについて聞かれたら、黙ってなさいよ。あんたが……話をでっちあげる癖があるのは、お互い様でしょ」

ドアが閉まった後、私はベッドに崩れ落ちた。早川真井の脅しは明白だった。もし私が真実を暴露しようものなら、彼女はこの大学での私の生活を耐え難いものにする方法を千通りは持っているだろう。

でも、今はもっと大きな懸念があった。黒木直樹が本当に早川真井を探しているのなら、これは偶然のはずがない。

二時間後、私は不安な気持ちを抱えながら、キャンパス内のスターバックスへと歩いていた。秋の午後の日差しは心地よく暖かかったが、私の体には悪寒が走っていた。

コーヒーを待つ列に並んでいると、聞き覚えのある甲高い笑い声が聞こえた。振り返ると、隅のテーブルに座る早川真井の姿が目に入った。そして、その向かいには一人の男性がいた。

世界が止まったかのようだった。

その男性は茶色の髪をしており、窓からの光が、彼の完璧な横顔の輪郭を縁取っていた。彼は本に目を落とし、左手で優しくページを撫で、右手でコーヒーカップを手にしていた。

あの仕草。十年前、彼が私に点字を教えてくれた時、いつもそうやってページに触れていた。まるで言葉に宿る命を感じ取るかのように。

黒木直樹だった。本当に彼だ。

息をするのも忘れ、自分がまだ列に並んでいることすら忘れていた。後ろの学生にそっと前へ促されて、ようやく自分の注文の番だと気づいた。

「ブラックコーヒーをお願いします」

自分の声が、自分でも奇妙に聞こえた。

コーヒーを受け取った後、私は彼らを観察しやすく、かつ気づかれにくい隅の席を見つけた。早川真井は興奮した様子で黒木直樹に何かを話しており、大げさな身振り手振りを交えている。黒木直樹は穏やかに微笑み、時折頷きながら耳を傾けていた。

彼は飲む前にコーヒーの香りを嗅ぐ。十年前と変わらない癖。早川真井が話している間、彼は注意深く彼女を見ていたが、その意識が完全に彼女には向いていないのが私には感じ取れた。

不意に、彼の視線がこちらへ移った。

かつて光を失っていたその瞳は、今や澄み切って輝き、十年前と同じように優しげだった。彼の視線が私に注がれた時、一瞬、見覚えがあるという表情がよぎったのを私は見た。

私はすぐに俯き、スマホに夢中になっているふりをした。心臓が早鐘を打ち、他の人にも聞こえるのではないかと心配になるほどだった。

十分後、こっそりと盗み見ると、黒木直樹の姿はもうなかった。早川真井はまだそこに座り、満足げな笑みを浮かべて自撮りをしている。私は安堵のため息をつき、席を立とうとした。

「西園寺古里さん?」

体が凍りついた。ゆっくりと振り返ると、黒木直樹が私のテーブルの横に立ち、穏やかに微笑んでいた。

「あなたが、真井がよく話している義理の妹の西園寺古里さんですね?」

彼の声は十年前と同じように優しかったが、今はもっと成熟した響きがあった。

「お二人、あまり似ていませんね」

喉が渇きすぎて言葉が出なかった。これだけの年月が経っても、彼の声は私にあの暗い日々を、あの地下室で彼がそっと私を慰めてくれた瞬間を思い出させた。

「はい」

私はようやく声を取り戻した。

「義理の姉妹です」

「面白いですね」

彼は断りもなく、私の向かいの席に腰を下ろした。

「あなたの目は特別だ。たくさんの物語を見てきたような目をしている」

これは試されている。彼が、私が過去を覚えているか、私たちの過去を認めるか、確かめようとしているのだ。

「何のことか、わかりません」

私の声は震えていた。

黒木直樹の笑みは変わらなかったが、彼の瞳に何かがきらめくのが見えた。満足だろうか?それとも失望?

「もちろん」

彼は何気ない口調で言った。

「ただ、見覚えがあるような気がしただけです。もしかしたら、どこかでお会いしたことがあるかもしれませんね?そう……遠い昔に」

私の手が震え始めた。彼は私が覚えていることを知っている。まるで猫が鼠をいたぶるように、私をもてあそんでいる。

「ありえません」

私は立ち上がり、その場を去る準備をした。

「お会いしたことはないと確信しています」

「ふむ」

彼も立ち上がったが、私を引き止めようとはしなかった。

「では、俺の勘違いだったようですね。何しろ、一部の記憶というものは……選択的に忘れられるものですから」

背を向けて立ち去ろうとしたが、背後から聞こえた彼の声に、私の血は瞬時に凍りついた。

「気をつけて、古里。この世界は危険だ。特に、秘密を抱えている者にとってはね」

あの口調。優しさに包まれた、穏やかな警告。十年前、地下室にいた時と寸分違わない。

私は振り返らず、ただスターバックスから出る歩を速めた。だが、彼がまだそこに立ち、静かに私が出ていくのを見送っていることはわかっていた。

その夜、使い古されたベッドに座りながら、私は自分が周到に仕掛けられた罠に嵌まったのだと悟った。

黒木直樹が戻ってきた。復讐のためではない、少なくとも、まだ。彼は待ち、観察し、ゆっくりと蜘蛛の巣を張っている。彼は早川真井を利用して私に近づき、彼女の虚栄心と無知を食い物にしているのだ。

そして私は、その全てが展開していくのをただ無力に見守ることしかできない。

二年前、私は地獄から逃げ出したと思っていた。今、私はただ一つの檻から別の檻へ飛び移っただけなのだと気づいた。そして今回、その檻の鍵を握っているのは、私が深く傷つけた相手だった。

さらに恐ろしいのは、彼がもはや私の付き添いを必要とした、あの盲目の少年ではないということだった。

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