第9章

西園寺古里視点

朝の波音は、この一ヶ月間、毎日と同じように穏やかだった。

目を開けると、黒木直樹がまだ眠っていた。朝日の中で見る彼の寝顔は、とても穏やかだった。

私は静かに起き上がって窓辺へ歩み寄り、遠くの水平線を見つめた。今日、すべてが終わる。この美しい嘘が、ついに幕を閉じるのだ。

無意識に、胸元のネックレスに手が伸びる。そこには、小さな盗聴器が仕込まれていた。この一ヶ月、それは私たちの会話をすべて記録してきた。昨夜、彼がプロポーズしてくれた言葉も、一言一句残さずに。

「もう二度と、誰にも君を傷つけさせない」

彼の声がまだ耳に残っているけれど、今となってはあまりにも...

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