第3章

午後一時五十分、私は心理学部の建物の前に立っていた。手のひらがじっとりと汗ばんでいる。

午前中ずっと、悠真の最後の言葉について考えていた。三年前、図書館で本を拾ってくれた人……あれは本当に彼だったんだろうか? ずっと翔真だと思っていて、その温かい記憶があったからこそ、私はあの顔に惹かれるようになったのだ。

『もし、真実が私の想像していたものと違ったら?』

研究室は三階の一番奥にあって、廊下は不自然なほど静まり返っていた。ドアを押し開けると、中ではすでに悠真が機材の調整をしていた。

「来てくれたんだ」彼が顔を上げると、眼鏡の奥の瞳に少し緊張の色が浮かんだ。「ここに座って」

部屋には様々な実験機器が並び、中でもひときわ目立つのは脳波計で、その近くには数台のモニターが置かれていた。悠真は白衣を羽織り、昨夜よりも専門家らしく、そして……頼もしく見えた、だろうか?

「この実験なんだけど……」彼は咳払いをして、「実は、人が特定の顔に対して無意識の好意を抱くことがあるのか、ずっと知りたかったんだ」

「それって……顔の好み、ということ?」私は椅子に腰を下ろした。「認知心理学の分野みたいね」

悠真は頷き、神経質そうに指先で機材のパラメータを調整している。「君が色々な顔を見ているときの脳波の活動と、その反応を測定させてもらう」

『頼む、本当に彼女を助けたのが僕だったって、思い出してくれ……』

私は凍りついた。今の声は……。

「今、何か……聞こえなかった?」私は悠真を見て眉をひそめた。

彼の顔がさっと青ざめた。「どういうこと?」

「誰かが話しているような、でもそうじゃないような……」私は首を振った。「たぶん、疲れてるだけかも」

悠真の手はキーボードの上で一瞬止まり、また調整を続けた。「これを着けて」彼は私に脳波測定用の電極キャップを手渡した。「少しチクチクするかもしれないけど、緊張しないで」

電極が頭皮に触れた瞬間、微かな電気の感覚が体を駆け巡った。悠真はコンソールで忙しなく作業しており、モニターに波形が表示され始めた。

「今から写真をいくつか見せるから。リラックスして見ていればいい」

画面に最初の写真が映し出された――生徒会でスピーチをする翔真の姿だ。心拍数が少し上がったが、それは恋心からではなかった。昨夜の怒りがまだ完全には消えていなかったのだ。

『兄さんの写真を見て、こんなに平然としているなんて。三年前は、この顔を見たら目を輝かせていたのに……』

今度は確信した――悠真の心の声が、本当に聞こえる。

装置が不意に、ジジッと微かな電気の変動音を立て、モニターの波形に異常なスパイクが見られた。

「機材の調子、どこか悪いの?」と私は尋ねた。

「いや、ただ……データが少し異常でね」悠真は素早く何かを記録した。『どうして彼女の脳波がこんなことに? これじゃ科学的じゃない……』

彼の内なる混乱と焦りが、はっきりと聞こえてくる。まるで突然、人の目を通して魂の中まで見通せるようになったような、奇妙な感覚だった。

「悠真くん」私は彼をまっすぐ見つめた。「あなたが私に伝えようとしている真実って、何?」

彼の手の中のペンが止まり、ゆっくりと顔を上げた。その心の中の葛藤と決意が、私には感じ取れた。

『もう、潮時だ。彼女には、真実を知る権利がある』

悠真はキャビネットまで歩いていくと、ファイルフォルダを取り出した。「これは三年前の、図書館の監視カメラのスクリーンショットだ」

彼が写真を広げると、そこには見覚えのある光景が――大学図書館の二階、文学書のコーナー。写真の中では、一人の少女(それは私だ)が地面にしゃがみ込んで散らばった本を拾っており、その隣に立って手伝っている少年は……。

「これ、翔真じゃない」私は息を呑んだ。

「僕だ」悠真の声は柔らかかった。「三年前のあの午後、君の本を拾うのを手伝ったのは僕なんだ。翔真はあの日、一度も図書館へは行っていない」

写真の中の少年を注意深く見つめる――確かに眼鏡をかけ、シンプルなセーターを着ている。そして何より、私を見つめるその眼差しが……。

『彼女はその後、翔真を追いかけた。僕は毎日、苦しい思いで見つめていた。彼女が好きだったのは僕じゃなく、兄さんの顔だったんだ。でも、彼女の心をときめかせたあの瞬間は、僕が贈ったものだとは知らなかった』

心臓が激しく脈打ち始めた。装置のせいじゃない。悠真の心の中に渦巻く、深い痛みと愛情が聞こえてくるからだ。

「どうして、もっと早く教えてくれなかったの? どうしてこんなに長く誤解させたままにしたの?」

悠真は眼鏡を外し、震える手でそれを拭った。「だって……君が、あいつといてすごく幸せそうだったから。君の幸せを、壊したくなかったんだ」

『たとえ辛くても、たとえ毎日兄さんといる彼女を見続けなければならなくても、彼女を悲しませたくはなかった』

私の目に涙が滲み始めた。三年間、私は翔真を愛していると思っていた。でも本当は、あの温かい記憶を、しゃがみ込んで本を拾うのを手伝ってくれたあの少年を、愛していたのだ。

そして、その少年は悠真だった。

「じゃあ、昨日の夜は……」

「もう、我慢できなかったんだ」悠真は眼鏡をかけ直した。「兄さんが君をあんな風に扱うのを見て、聖奈が君を侮辱するのを見て、もう黙ってはいられなかった」

『兄さんとの関係も含めて、すべてを失うかもしれないとわかっていた。でも、彼女がこれ以上傷つくのを見ていられなかったんだ』

研究室は静寂に包まれ、ただ装置の静かな駆動音だけが響いていた。私の反応を待つ、悠真の内心の不安が伝わってくる。

「この、心を読む能力は……」私は脳波測定装置を指さした。「あなたが設計したの?」

悠真は苦笑した。「これは予想外だった。理論的には、こんなことは起こらないはずなんだけど」

『でも、もしかしたらこれは、天が僕にくれたチャンスなのかもしれない。彼女に、ようやく僕の心を聞いてもらうための』

私は立ち上がり、悠真の方へ歩み寄った。「これで、真実がわかったわ」

彼はごくりと唾を飲んだ。「それで?」

「それで……」私は彼の誠実な瞳を見つめて言った。「この三年間、私の知らないところで、あなたが私のためにしてくれたことが、他に何があるのか知りたい」

『たくさんあるよ。君が図書館で遅くまで勉強するたび、僕は近くで君の安全を見守っていた。君が兄さんと喧嘩して泣いていたとき、駆け寄って慰めたくて仕方がなかった。君が病気になったとき、こっそりルームメイトにメッセージを送って、世話をしてくれるよう頼んだりもした……』

ついに涙がこぼれ落ちた。悲しみからじゃない。この静かな守護に、深く心を動かされたからだ。

「悠真くん……」

「何も言わなくていい」彼は慌ててティッシュを差し出した。「ただ……」

「ただ、何?」

『ただ、君を愛してる。初めて会った日から、ずっと君を愛してるんだ』

今度こそ、私は彼が最後まで言い終えるのを待たず、その体を抱きしめていた。

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