第2章

綾乃礼央視点

パーティーが終わり、皆が帰った後、本当の嵐はこれから始まるところだった。

まずは、瀬川家との私の複雑な関係について説明しなければならない。

二十二歳の私、綾乃礼央。表向きは生命医工学を学ぶただの孤児。しかしその実態は、鉄鋼王・篠崎紀保の隠し子にして、瀬川株式会社の株を十五パーセント所有する株主。この秘密を私が知ったのは、前世で死ぬ間際のことだった。

瀬川空栖、二十五歳。瀬川家の次男で、元馬術チャンピオン。三年前の落馬事故で下半身不随となり、家族の中では厄介者扱いされている。皮肉なことに、私の学費を自分のお小遣いから秘密裏に払ってくれていたのは、彼だった。私が隠れた株主であることなど、知る由もなく。

前世では、あの老魔女――瀬川紀子――が私の正体に気づき、弁護士からの連絡を横取りした。彼女は私の株を結婚によって支配しようと、長男の瀬川江との結婚を強要した。私は自分がただの貧しい学生だと思っていたから、断れば学費を打ち切ると脅され、屈するしかなかった。

その結果?私の結婚式の日、空栖は窓から身を投げた。遺書には、私が他の男と結婚するのを見ていることなどできない、とあった。私は三年間苦しみ抜き、彼の後を追って死を選んだ。

そして私は生まれ変わった。すべてを変えることになる、この夜に。

今、私は瀬川邸の門の前に立っていた。黒い鉄格子が、まるで牢獄のようにそびえ立っている。門番は私の顔を覚えていた。何しろ私は、空栖が支援する学生として、頻繁にここを訪れていたのだから。

「綾乃さん、こんな遅くに……」

「通して」

私の声はいつもより冷たかった。

「空栖に会わなきゃいけない」

十分後、私は屋敷の私室である書斎の前に立っていた。暖炉から揺らめく炎の光が、部屋を血のように赤く染めている。空栖は車椅子に座り、私に背を向け、燃え盛る炎を見つめていた。

「ここに来るなんて、正気か」

彼は振り返らないまま、氷のように冷たい声で言った。

「今夜はもう、十分恥をかかされた」

私は中に入り、ドアを閉めた。

「言ったはずよ。あなたと結婚するって」

空栖は車椅子を勢いよく回転させた。その表情は恐ろしいほどに歪んでいる。彼がここまで怒りを露わにするのを、私は初めて見た。

「俺と結婚するだと?」

彼は冷たく笑った。

「礼央、孤児の娘が愛を語れるとでも思っているのか?俺を見ろ――もう壊れてるんだぞ。俺を辱めるつもりか?それとも自分自身をか?」

彼の言葉はナイフのように突き刺さる。だが、これが彼の自己防衛だということは分かっていた。前世の私なら、こんなことを言われたら弱気になって引き下がっていただろう。でも、今回は違う。

「何が目当てだ?」

空栖は攻撃を続ける。

「俺の金か?瀬川の名前か?それとも、足の不自由な男なら簡単に操れるとでも思ったか?」

「もうやめて」

私は彼の言葉を遮り、その目をまっすぐに見つめた。

「私は嘘はつかないわ、空栖」

「嘘?」

彼は嘲るように笑った。

「俺を愛する理由さえ説明できないくせに。今の俺がどんな状態か分かっているのか?この足が……」

「分かってる」

私は一歩近づいた。

「あなたの足が萎縮していることも、カテーテルが必要なことも、時々粗相をしてしまうことも。全部知ってる」

空栖の顔が死人のように青ざめた。

「出ていけ」

「嫌よ」

私は彼の前に立った。

「あなたに証明してみせる」

「出ていけっ!」

彼は怒鳴り、テーブルから本を掴んで私に投げつけた。

私は避けなかった。本は私の肩に当たり、それでも一歩も引かなかった。

「また来るわ」

私は彼を一瞥し、背を向けて部屋を出た。

―――

それから数日間、私の猛烈なアプローチが始まった。

最初の朝、私は手作りの朝食を手に屋敷の塀を乗り越え、空栖の部屋のドアをノックした。

「開けて、空栖。好きなサンドイッチを作ってきたの」

ドアは開かなかったが、中で何かが割れる音が聞こえた。

警備員がやって来て、私を引きずり出した。私は彼らに向かって叫んだ。

「彼が話に応じてくれるまで、何度でも来てやるわ!」

二日目、私は瀬川株式会社の取締役会に乗り込んだ。

「皆さん、こんにちは。綾乃礼央です」

私は会議テーブルの前に立ち、驚愕に満ちた表情を無視した。

「瀬川空栖さんと結婚することを、ここにお知らせします」

瀬川江は激昂し、瀬川紀子の顔は土色に変わった。私はまたしても警備員に引きずり出された。

三日目、私は朝から晩まで屋敷の庭に座り込んだ。

「お嬢様、ここにおられては困ります」

執事が丁寧に言った。

「帰りません」

私は芝生の上で膝を抱えた。

「彼が会ってくれるまで」

警察を呼ばれたが、四日目も私は戻ってきた。

五日目、六日目、七日目……。

空栖が見ていることは分かっていた。部屋のカーテンの向こうから、彼の視線を感じる。私が引きずり出されるたびに、カーテンが揺れるのが見えた。

それで十分だった。彼の心の壁が、脆くなっているのが分かったから。

―――

八日目の夜、私はとどめを刺すことに決めた。

真夜中まで待ち、再び塀を乗り越えた。今度は彼の部屋ではなく――彼の私的なバスルームへ直行した。

彼の習慣は把握している。毎晩十一時、彼は一時間バスルームに籠る。そこは、彼が最も無防備になる時間だった。

バスルームのドアに鍵はかかっていなかった――まさか誰かが侵入してくるなど、予想もしなかっただろう。

ドアを押し開けると、温かい蒸気が顔に当たった。大理石の壁と鏡が、薄暗い照明を反射している。

そして、空栖の姿が目に入った。

彼は専用のシャワーチェアに座り、私に背を向けていた。シャワーヘッドから流れ落ちるお湯が、彼の肩を濡らしている。上半身は今も筋肉質で完璧だったが、しかしその下は……。

彼の脚は棒のように細く、筋肉はひどく萎縮していた。太腿には手術の痕が走り、白い傷跡が肌の上を這っている。

「誰だ?」

空栖は人の気配を察し、鋭く振り返った。

私を見て、彼の目は大きく見開かれた。

「礼央?どうやって入ってきた?」

彼は必死に体を隠そうとしたが、チェアの上では動きがままならない。これこそ、彼が誰にも見られたくなかった姿――最もありのままで、最も脆い状態。

「出ていけ!今すぐ出ていけ!」

彼の声には絶望が滲んでいた。

「こんな姿、見ないでくれ!」

しかし、私は去らなかった。それどころか、靴を脱ぎ、シャワーエリアへと足を踏み入れた。

「見ないでくれ……」

空栖の声は震えていた。

「頼むから、見ないでくれ……」

私は彼の前にひざまずき、降り注ぐお湯も構わずに、彼の脚の傷跡を優しく撫でた。

「この傷、綺麗だわ」

私は涙を浮かべ、彼を見上げた。

「だって、あなたの一部だから」

「礼央、やめろ……」

私は身をかがめ、彼の太腿にある一番長い傷跡に、そっと口づけをした。空栖の体は激しく震え、呼吸が速くなる。

「あなたの、一番弱いところを、もう見たわ」

静かなバスルームに、私の声が柔らかく、しかしはっきりと響いた。

「あなたの体も、傷も、痛みも。私だけが見ていい。私だけが触れていい」

「そんな……そんな目で見ないでくれ……」

空栖の声は、ほとんど嗚咽に近かった。

「俺の身体は、もう元通りにはならないんだ……」

「あなたは、私のすべてよ」

私は彼の萎縮したふくらはぎにキスをした。

「完璧でも、壊れていても、全部あなた。私はそのすべてが欲しい」

空栖の手は震え、私を突き放したいのに、それをためらっている。彼の心の壁が崩れていくのが分かった。愛を信じたいと願いながら、これ以上傷つくことを恐れる、その矛盾が。

「なぜだ?」

彼はついにその問いを口にした。声は涙でかすれていた。

「なぜ俺なんだ?なぜ瀬川江じゃない?あいつはすべてを持っている。完璧な体も……」

私は彼の目を見上げた。そこには涙が溜まっていた。

「あなたの足や地位を愛しているわけじゃないから」

私は立ち上がり、彼の顔を両手で包んだ。

「私はあなたの魂を愛しているの、空栖。孤児の女の子のために密かに学費を払い、人に迷惑をかけるくらいなら一人で苦しむことを選ぶ、そんなあなたを」

お湯は流れ続け、私たち二人を濡らしていく。空栖の涙が水滴と混じり合い、どちらがどちらか分からなかった。

「俺にそんな資格は……」

彼は目を閉じた。

「君に何も与えてやれない……」

「あなたはもう、私に世界をくれたわ」

私は彼の額にキスをした。

「今度は、私があなたを守る番」

今度こそ、彼は私を突き放さなかった。

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