第8章
綾乃礼央視点
午後の日差しがカーテンを通り抜け、私たちの住む小さな町のアパートに差し込んでいた。私はキッチンで空栖の昼食を準備しながら、まだ平らなお腹を優しく撫でていた。妊娠の知らせは私たちの生活を希望で満たしてくれた――空栖は、我が子が生まれる前に歩けるようになろうと、毎日必死にリハビリに励んでいたのだ。
突然、私の携帯が鳴った。
「礼央」
瀬川紀子の疲れた声が受話器の向こうから聞こえてきた。
「話があるの」
胸が締め付けられる。三ヶ月、彼女はついに電話をかけてきたのだ。
「ご用件は何ですか?」
私の声は冷たかった。手は無意識にお腹に触れていた。
「疲れたのよ...
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