第5章

妊娠二ヶ月。ようやく人生に希望の光が差してきた、そう思っていた。

その日の午後、診察室を出ようとした私の耳に、森嶋先生が真琴と電話で話す声が飛び込んできた。先生はちょうど私の検診を終えたばかりだった。

「申し訳ありません、羅瀬野さん。ですが、美沙さんの容態が急速に悪化しています」

私は足を止め、半開きのドアの隙間から聞き耳を立てた。

「どういうことだ?」真琴の声には心配の色が滲んでいた。

「白血病が進行しているんです。通常の化学療法ではもう効果がありません」森嶋先生は深刻な面持ちで首を振った。「今すぐ骨髄移植が必要です」

骨髄移植?

「なら、すぐにやってくれ」真...

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